はじめに
2025年10月22日にAHAが蘇生におけるCPRとECCガイドラインを更新しました。ガイドラインの更新は5年ごとにされているため、前回の2020年からアップデートされたものが今回のガイドラインになります。
ガイドラインの変更に伴い、手技等を中心に変更点や更新部分をピックアップしていきます。
参考資料
AHA ACLSプロバイダーマニュアル

ER Nurse
現時点で日本語版のACLS参考書は2020年しか販売されていないため、2025年版の公開はお待ちください。
リンク
AHAのガイドラインの更新とともにACLSのプロバイダーマニュアルも更新され新しくなります。すでに、英語版のACLSプロバイダーマニュアルは2025年10月23日に販売されていますが、日本語版2025年ACLSプロバイダーマニュアルの発売時期は未定となっています。

AHA蘇生ガイドライン2025年 変更点
5年おきの蘇生ガイドライン変更のため、内容が大幅に変更することがほとんどです。今回はその中でも手技など臨床、インストラクション、ACLS受講に関わるものを中心にピックアップしていきます。
蘇生に関する倫理や詳細部分に興味がある方は、AHAが主要な部分を日本語訳しているためご参考にして下さい。
※本来のガイドラインでは推奨する、妥当であるなどの文言が含まれているものもありますが、分かりやすく記載するために割愛しています。ご了承下さい。
新生児におけるガイドライン変更点
吸気圧は胸の上がりを見ながら、20 cmH₂Oから開始し、必要に応じて30〜40cmH₂Oまで上げる。 | 初期の最大吸気圧を20〜30cmH2Oとすることが妥当であり、効果的な換気が得られるよう最大吸気圧を調整する。 |
| 新生児においては、1分あたり40〜60回の換気を行う。 | 新生児においては、1 分あたり30~60 回の換気を行う。 |
| 新ガイドライン | 新生児に胸骨圧迫を行う際は、剣状突起より上に位置する胸骨下 3 分の1の部位で圧迫する。 |
| 新ガイドライン | 胸骨圧迫は2~5 分ごとに圧迫者を交代し、心拍数を評価している間に交代する。 |
※随時追加していきます。
乳児・小児におけるガイドライン変更点
| 変更後 | |
|---|---|
| 新ガイドライン | 心停止状態の乳児および小児では、CPR の中断を最小限に抑え、胸骨圧迫の中断時間は 10 秒未満にすベきである。 |
| 乳児に対しては、救助者が2人以上の場合は片手の手根部または両手の親指で胸を囲む胸郭包み込み両母指圧迫法で胸骨を圧迫する。 | 乳児に対しては,救助者は片手の手根部または両手の親指で胸を囲む胸郭包み込み両母指圧迫法で胸骨を圧迫する。救助者が胸を物理的に囲めない場合は、片手の手根部で胸を圧迫する。 |
| 重度 FBAOである乳児には、物体が排出されるか反応がなくなるまで、背部叩打5回と腹部突き上げ法5回を交互に繰り返す。小児には背部叩打法または腹部突き上げ法 を行う。 | 重度 FBAOである乳児または重度の異物による気道閉塞(FBAO )がある小児には、物体が排出されるか反応がなくなるまで、背部叩打5回と腹部突き上げ法5回を交互に繰り返す。 |
ETCO₂モニタリングは胸骨圧迫(CPR)時の質を評価するために考慮できる。 | CPR 中に侵襲的に気道が確保されている乳児および小児では、CPRの質を評価するために呼気終末二酸化炭素(ETCO2)モニタリングを検討する。 |
| 新ガイドライン | 乳児および小児においては、特定のETCO2の閾値だけをもって蘇生を中止する判断をすべきではない。 |
| 新ガイドライン | CPR 中に持続的侵襲的動脈圧モニタリングを行っている乳児および小児では、医療従事者が乳児では25mmHg以上、1歳以上の小児では 30mmHg以上の拡張期血圧を目標とする。 |
| 新ガイドライン | 他の予後予測基準とあわせて解釈する場合に限り、小児や乳児では心停止後72時間以内に脳波(EEG)を使用して、神経学的転帰の良否を予測する。 |
成人におけるガイドライン変更点
| 頭頸部外傷のある成人で, 下顎挙上と気道補助具の挿入によっても気道が確保できない場合は, 頭部後屈―あご先挙上法で気道確保を行っても構わない | 頭頸部外傷のある成人で, 下顎挙上と気道補助具の挿入によっても気道が確保できない場合は, 訓練を受けた救助者が頭部後屈―あご先挙上法で気道確保を行う |
胸が上がる程度の換気量とし、低換気または過換気を避ける。 | 心停止の成人患者に対して換気を行う場合は、胸の動きが目視できる程度の一回換気量を与え る。 心停止の成人患者に人工呼吸を行う際、救助者は低換気(回数が少なすぎる、または換気量が少なすぎる)や過換気(回数が多すぎる、または換気量が多すぎる)を避けるベきである。 |
| 患者が心停止していない場合は患者への危害のリスクは低いため、心停止が疑われるときに市民救助者がCPRを開始することが推奨される。 | 市民救助者および医療従事者は高度気道(例 : 声門上気道,気管チューブ)を確保する前に、胸骨圧迫30回と人工呼吸2回のサイクルでCPRを行う。 |
| 新ガイドライン | 心停止の成人に除細動パ ッドを取り付ける際、ブラジ ャ ーを外さずに位置を調整する |
| 新ガイドライン | 心停止となった肥満の成人へのCPR の場合でも、肥満でない患者と同じ手技で行う |
| 心停止者において、胸骨圧迫での機械的ビストン器具の使用が用手的胸骨圧迫に比べて有益であるというエビデンスはない。用手的胸骨圧迫は、依然として心停止に対する標準的治療法である。しかし、質の高い用手圧迫が困難であるか、プロバイダーにとって危険と思われる特殊な状況(救助者の人数が限られる長時間のCPR,低体温性心停止中のCPR,走行中の救急車内でのCPR,血管造影室内でのCPR,ECPR準備中のCPRなど)では、そうした装置が従来のCPRの妥当な代替法になる可能性がある。 | 成人の心停止に対して、機械式 CPR 装置の常用は推奨されない |
| 新ガイドライン | 成人心停止では質の高い徒手胸骨圧迫の実施が困難または医療従事者にとって危険な特定の状況において、機械式 CPR 装置の使用を検討してもよい。ただし、装置の装着や取り外しの際には、 CPR の中断を厳格に最小限に抑える必要がある。 |
| 重度の FBAO を有する成人には、物体が排出されるか反応がなくなるまで、背部叩打法または胸部突き上げ法を行う。 | 重度の FBAO を有する成人には、物体が排出されるか反応がなくなるまで、背部叩打法 5 回と腹部突き上げ法5回を交互に繰り 返す。 |
| 新ガイドライン | 3 回以上連続で電気シ ョ ックを行 っても心室細動または無脈性心室頻拍が持続する成人の心停止に対する、ベクトル変更除細動の有用性は確立されていない。 |
| 治療抵抗性ショック適応リズムへの二重連続除細動の有用性は確立されていない。 | 3 回以上連続して除細動を行 っても心室細動/無脈性心室頻拍が持続する場合における二重連続除細動の有用性も確立されていない。 |
| 静脈路の確保が成功しないまたは可能でない場合,骨髄路の確保を検討できる。 | 成人の心停止患者に薬剤を投与する際は、まず静脈 (IV)ルートの確保を試みる。成人の心停止患者において静脈路の確保がうまくいかない場合や実施が困難な場合は、骨髄路 (IO)の使用が妥当。 |
| 投与のタイミングに関しては、ショック適応リズムでの心停止の場合、初回の除細動が不成功後にアドレナリンを投与する。 | タイ ミ ングの観点から、シ ョック適応のリ ズムを呈する成人心停止患者に対しては、初回の除細動に失敗した後にエピネフリンを投与する。 |
| 心停止において、アドレナリンと併用して投与するバソプレシンには、標準用量のアドレナリンに代わる利点はない(2015G更新)。 | バソプレシン単独、またはバソプレシンとエピネフリンの併用は、成人の心停止患者においてエピネフリンの代替としての利点はない。 |
| 新ガイドライン | 成人の心停止患者に対する頭部挙上位での心肺蘇生(Head-up CPR )は、臨床試験の場を除いて推奨されていない。 |
| 成人の安定性単形成VTは、初回エネルギー量として100Jを用いた単相性波形または二相性波形のカルジオバージョンショックによく反応する。無脈性VTまたは多形成VTに対しても、同期下カルジオバージョンを用いてはならない(2010G更新)。 | 血行動態が不安定な成人のQRS 幅の広い頻拍に対する急性期治療として、同期電気シ ョ ックが推奨される。 |
| 心房細動にカルジオバージョンを行う場合、推奨される初回二相性エネルギー量は120〜200Jである。成人の心房細動またはその他の上質性リズムにカルジオバージョンを行う場合に必要なエネルギー量は、一般にそれより少なく、装置が単相性または二相性のどちらでも、初回エネルギー量は50〜100Jで十分であることが多い。初回のカルジオバージョンショックが成功しなければプロバイダーは、エネルギー量を段階的に増やすべきである(2010G更新)。 | 成人の心房細動に対し、米国で現在承認されている二相性波形除細動器を用いた同期電気シ ョ ックでは、初期エネルギー設定を200J以上とし、除細動が不成功の場合は使用する二相性波形除細動器の種類に応じ て段階的に増加させる。 |
| 新ガイドライン | 成人の心房細動に対する初期治療戦略としての二重同期除細動の有用性は不明である。 |
| 新ガイドライン | 薬物療法に反応しない血行動態不安定な徐脈が持続する成人患者では、一時的経静脈ペーシングにより心拍数を増加させ、症状を改善する。 |
| 心拍再開後の治療中に低血圧(収縮期血圧90mmHg未満、平均動脈圧65mmHg未満)を避け、ただちに是正することは妥当として良い。 | ROSC後の成人では、平均動脈圧(MAP)を少なくとも65mmHgに維持し、低血圧を回避すベきである。 |
| ROSCが認められた全ての患者に対して、意識状態が悪い(指示に従わないレベル)場合、32〜36°Cから目標体温を選びその体温に達してから少なくとも24時間維持する TTMを行うべきである。 | ROSC 後に口頭指示に反応しない成人患者では、少なくとも36時間は体温管理を継続する。 |
| 新ガイドライン | 心停止およびROSC後に難治性心原性シ ョ ックを呈する、特定の成人患者においては,一時的な機械的循環補助を検討してもよい。 |
おわりに
ガイドラインの変更は救命に関わる研修の内容や臨床での対応が大きく変わります。変更点を理解することで最新の救命処置を実施することができます。

