はじめに
正月の餅や小さい子どもで比較的頻繁に引き起こされる窒息ですが、窒息に対しての対症療法がいくつか存在します。
窒息は非常に緊急性の高い症状ですが、早期に窒息を解除出来れば生命予後は比較的良いとされています。
窒息とへの対応と言えば背部叩打法やハイムリック法を行われることが多いですが、救急医療の視点から窒息へのアプローチを紹介している本がありました。

Nurse
窒息は救急疾患としても非常に多いです。
実際に正月にお餅を詰まらせてしまった高齢患者やブドウを詰まらせてしまった小児患者への対応も行ったことがあります。
経験も踏まえ、今回は窒息に対する救急看護をピックアップしていきたいと思います。
参考資料
こちらの参考書は考え方や根拠などを分かりやすく記載している参考書です。
中外医学社が出版しており、著者である小尾口邦彦氏も元々救急診療科などで経験されている方になります。
同シリーズが複数ありますが、どれも分かりやすく解説されており看護師でも読みやすい参考書になっています。
発売日 | 2016年11月 |
著者 | 小尾口 邦彦氏 |
シリーズ | ER・ICU診療を深める |
出版社 | 中外医学社 |
ページ数 | 418P |
定価 | 4,840円 |
キーワードはall or nothingです。
窒息とは
窒息とは気道内に外来性の異物が誤って入り気道を狭窄・閉塞した状態を表します。
嚥下は食べ物を咀嚼した際に軟口蓋が鼻腔を塞ぎ喉頭蓋が食べ物を気道に入らないようにすることで成り立ちます。
しかし、高齢になると嚥下機能が低下し、小児であれば気道もまだ細いため食べ物が気道に間違って入った際には容易に気道を閉塞します。
気道閉塞の好発
- 好発:小児・高齢者
- 小児の主な異物:豆.ビー玉.おもちゃ.コイン.ボタン電池
- 高齢者の主な異物:義歯.餅.ゼリー.肉片
症状として有名なものにチョークサインがあります。
チョークサイン
窒息などの気道異物の際に見られる特徴的なサインで、両手で首を押さえるような仕草を見せる
チョークサインが見られた際には気道が閉塞されて呼吸ができていないと考えてください。
食事中や食後、義歯着用の高齢者などでチョークサインが見られれば窒息を第一に疑います。
背部叩打法とハイムリック法
窒息を解除するための応急的対応として背部叩打法とハイムリック(腹部突き上げ法)があります。
大切なことは窒息の解除を行うのは意識が消失するまでです。
背部叩打法
背部叩打法は名前の通り背中を叩いて気道に詰まっているものを押し出します。
手の平の基部を用いて肩甲骨の間付近を叩きます。
ポイントとしては叩くことに遠慮しがちですが、命に関わっていることを自覚し力強く叩くことです。
ハイムリック法
ハイムリック法(腹部突き上げ法)は背中から腹部を強く押し上げることで用手的に横隔膜も挙上します。
横隔膜は呼吸をする際に重要な役割を果たしており、横隔膜が下がることで肺が広がり空気を取り込むことができます。
ハイムリック法による外力の効果で横隔膜が挙上すると、肺の膨張が抑えられ空気が外に逃げようとするため気道内圧が上昇し閉塞している異物を外に押し出します。
ハイムリック法の手技
- ウエスト付近に手を回しへその位置で握り拳を作る
- もう一方の手で握り拳を掴む
- 手前に引きながら上へ押し上げる
- 窒息解除後であっても内臓損傷を考慮して受診する
窒息の救急対応
窒息後、心肺停止前に窒息が解除できた場合には比較的予後は良好で、早期に意識が回復することも多くあります。
反対に心肺停止になってしまった場合、蘇生は高い確率でできますが植物状態のように意識が戻らない場合が多いです。
窒息の対応は意識の有無で変わります。
窒息初期(意識あり)の対応
窒息初期で意識がある場合は背部叩打法やハイムリック法にて窒息の解除を試みます。
チョークサインはまだ体が脱力していない証であるので、その際は早期に試みても良いですが、窒息から意識消失までの時間は十数秒です
意識状態が怪しく窒息の解除に自信がない場合は解除に固執せず、メリットの多い胸骨圧迫を早期に行って下さい。
胸骨圧迫を優先するメリット
- 背部叩打.ハイムリックなどの手技一つのみでは効果が薄い
- 窒息における胸骨圧迫の最大の目的は気道異物を押し出すこと
窒息初期以降(意識なし)の対応
意識がなくなった時点で胸骨圧迫からCPR(心肺蘇生法)を開始します。

救急要請も忘れずにお願いします。
CPRを行う際のポイントを幾つか紹介します。
- 脈の触知を行わない
- 人工呼吸を行わない
- アドレナリンよりも気道開通
窒息直後は身体の低酸素血症改善のために心臓は全力で働くため、意識障害直後でも脈の触知が可能な場合があります。
そのため、脈拍に捉われず最短で胸骨圧迫に踏み切るために脈を触知する時間を省きます。
人工呼吸は気道が閉塞しているので効果としては無く、アドレナリンも心臓に働きかけますが、そもそもの酸素の取り込み口が無ければ肺胞によるガス交換を行うことはできません。
兎にも角にも、窒息の対応で優先すべきは窒息の解除になります。

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JRC蘇生ガイドライン 2020にも記載されている内容です
まとめ
窒息は早期に解除できれば全く問題なく、解除が遅延し心肺停止になれば途端に予後不良になるall or nothingの病態です。
早期に解除できれば予後に影響が少ない点で言えば重症度よりも緊急度が高い疾患といえます。
そのため、プレホスピタル(病院前診療)の対応が重要となります。
家族の早期対応や救急隊の早期対応が予後に関わってくるため、窒息について適切に理解し冷静な判断が行えるように学んでもらえると嬉しいです。