初めに
本日は急性期でも使える必要エネルギー量の計算方法を紹介していきます。
病棟では栄養士の指導のもと1日の必要栄養量を算出して食事を提供されていることが基本です。
しかし、摂取する人自身の代謝量に加え、急性期や疾患など、実際には身長や体重以外にも栄養量を考える上で必要な要素は数多くあります。
エネルギー必要量の計算式は以下のようになります。
エネルギー必要量=BMR×活動係数×傷害指数
本記事では、BMR(基礎代謝量)の推定とそれを元に算出するエネルギー必要量を紹介していきます。
急性期だけでなく、慢性期など全ての人を対象に計算可能であるため、病棟で提供される食事量と実際に摂取するべきエネルギー量を推定する目安にも活用してください。
カロリーとは
- カロリーとは熱量の単位のこと
- エネルギーを数値化する時には熱量(キロカロリー)で表記する
- 一般的にはエネルギー=カロリー(キロカロリー)と言われることも多い
基礎代謝量(BMR)の計算
基礎代謝量とは
基礎代謝量とは安静にしている際に体が消費するエネルギー量でBMR/Basal Metabolic Rateと略します。
安静時とは、早朝空腹時で部屋も快適な温度特に消費量を増やす要因がない時です。
エネルギーを算出するためには、事前に基礎代謝量を算出する必要があります。
基礎代謝量の計算方法
基礎代謝量は男性と女性によって計算が異なるため、注意が必要です。
- 男性:66.5+(13.7×体重)+(5.0×身長)−(6.8×年齢)
- 女性:655.1+(9.6×体重)+(1.8×身長)−(4.7×年齢)
基礎代謝量の計算(一例)
事例:男性.70歳.身長170cm.体重60kg.
計算:66.5+(13.7×60)+(5.0×170)−(6.8×70)=
66.5+822+850−476=1262.5
この事例だと1日の基礎代謝量は約1260キロカロリー(1260kcal/日)となります。
エネルギー必要量の計算
エネルギー量に関連するデータ
エネルギー必要量を計算する上で、事前に必要な検査データを確認することが大切です。
以下の結果を元に栄養状態をアセスメントしていきます。
- 体重減少の具体的割合(%体重変化.%理想体重.%健常時の体重)
- 身体的計測値(上腕三頭筋部の皮脂厚.上腕筋の周囲長など)
- 生化学検査値(血清総タンパク質.アルブミン値など)
エネルギー必要量の計算方法
エネルギー必要量の計算方法はBMR ✕活動係数✕傷害係数になります。
活動係数と傷害係数の目安は以下の通りです。
仰臥状態 | 1.0 |
生活機能が自立している | 1.2 |
術後(合併症なし) | 1.0 |
長管骨骨折 | 1.15〜1.30 |
癌 | 1.10〜1.30 |
腹膜炎.敗血症 | 1.10〜1.30 |
重症感染症.多発外傷.広範囲熱傷 | 1.20〜1.40 |
多臓器不全症候群 | 1.20〜1.40 |
熱傷 | 1.20〜2.00 |
エネルギー必要量算出の一例
基礎代謝量を計算した際の男性が腹膜炎を発症し、臥位状態(寝たきり)になった場合を例にエネルギー必要量を算出します。
事例:男性.70歳.身長170cm.体重60kg.
男性の基礎代謝量は約1260キロカロリーだったため、それに活動係数と傷害係数をかけ合わせます。
臥位状態であれば活動係数1.0であり、腹膜炎の発症なので傷害係数1.2(1.10〜1.30の中間値で計算)となります。
1260×1.0×1.2=1512
この事例の場合は1日のエネルギー必要量は約1500キロカロリー(1500kcal/日)です。
栄養状態の予測
上記でエネルギー必要量を計算できますが、毎日エネルギー必要量を確保できたとしても、室温..生活ケアや日常生活動作.リハビリなど活動量によって個人差は必ず出てきます。
そのため、エネルギー必要量の確保と併せて栄養状態を確認していく必要があります。栄養状態を示唆する指標としては、アルブミン値と窒素バランスがあります。
アルブミンとプレアルブミン
栄養不足の目安として、プレアルブミンとアルブミンがあります。特徴がそれぞれ異なるので、必要に応じて使い分けますが急性期では栄養に加えて.炎症や.血管透過性(浮腫)の観察も行うのでアルブミンで評価することが多いです。
アルブミンとプレアルブミンの違い
アルブミン | プレアルブミン | |
種類 | タンパク質 | タンパク質 |
正常値 | 3.5〜5.0mg/dl | 22.0〜40.0mg/dl |
半減期 | 14〜21日 | 48時間 |
生成 | 肝臓 | 肝臓 |
指標項目 | 肝機能.炎症.栄養状態 | 肝機能.炎症.栄養状態 |
特徴 | 血漿の60%を占める.浮腫などを含めて長期的な栄養状態を把握 | 半減期が短く2日程度の炎症や栄養状態を把握できる |
アルブミン値からみる栄養状態
栄養不足の目安となるアルブミン値は以下の通りです。
過剰栄養 | 5.0mg/dl以上 |
適正な状態 | 3.5〜5.0mg/dl |
軽度栄養不足 | 3.1〜3.5mg/dl |
中等度栄養不足 | 2.4〜3.1mg/dl |
重度栄養不足 | 〜2.4mg/dl |
窒素(N)バランスによる栄養状態
窒素(N)バランスを確認するためには、摂取した窒素量と排泄された窒素量を確認します。
摂取した窒素=排泄された窒素 | 健康な成人 |
摂取した窒素>排泄された窒素 | 成長期や妊娠.体力回復 |
摂取した窒素<排泄された窒素 | 栄養不足.術後や熱傷.糖尿病など |
窒素バランス(g/dl)の確認方法は以下の二通りで、どちらを使用しても可能です。
- =(タンパク質摂取量(g)/6.25)−(24時間尿素窒素量+4)
- =(タンパク質摂取量(g)/6.25)−(尿素窒素(g/day)/0.8+2)
アルブミンによる栄養評価の信憑性
従来から栄養評価の指標としてアルブミンを用いられることが多かったですが、米国静脈経腸栄養学会(ASPEN)と米国栄養士会(AND)の共同報告やASPENと米国集中治療医学会(SCCM)の共同報告ではアルブミンにおける栄養評価は適切でないと言われています。
アルブミンは急性の炎症反応で大きく左右されることが多いため、CRPなどの炎症反応が高値の場合は炎症に伴うアルブミンの低下の可能性が高いです。
そのため、アルブミン値にのみ頼らず多角的な評価が必要です。2012年の米国静脈経腸栄養学会(ASPEN)と米国栄養士会(AND)共同報告では栄養失調の診断として下記6項目を指標として推奨しています。
- 摂取量不足
- 体重減少
- 筋肉量低下
- 皮下脂肪減少
- 体重減少をマスクする液体貯留
- 握力低下
上記6項目の内2項目以上当てはまると、栄養失調であるといった診断もあるため参考にしてみてください。
終わりに
栄養量の観察および確保は急性期でも慢性期でも重要な看護の一つです。特に急性期では、経口摂取が困難なことも多く栄養供給方法が点滴や経管栄養など多彩です。
その中で、必要な栄養量を確保することは栄養状態の改善だけでなく、病状回復にも重要な素因となります。
エネルギー必要量の確保とともに栄養状態を観察することは、適切な栄養を供給し活力向上や病状回復などQOL向上に大切な項目の一つです。