抗生剤ってどうやって使い分けるんですか?
Nurse
抗生剤は菌によって使い分けます。
血液や痰などから採取した検体から培養検査を行い、菌を同定した後、その菌に対する抗生剤を投与します。
本来の抗生剤の使い方は菌に対して選択的に投与することで、菌を死滅させます
しかし、現実的には培養検査の結果が出るまでには数日程度の時間がかかります
菌が同定されるのをその間、待っていると菌が繁殖し病状は悪化してしまいます
そこで重要になってくるのはエンピリック治療です
エンピリック治療とは
- エンピリック治療とは菌に対して、疾患や症状から菌を予測し抗生剤を投与すること
- 経験的治療とも言われる
- 菌が同定されるまでの間、少しでも早期に抗生剤を投与することで感染増悪を防ぐ
実際に救急外来でも感染患者さんに対して、ほぼ全例でエンピリック治療を行なっていますが、その他の考えられる疾患などから医師は細かく抗生剤を選択します
Nurse
今回はそんなエンピリック療法で用いる抗生剤として、主要なものを比較的大まかにまとめていきます
本記事では『この疾患であればこの抗生剤』と言われるような代表的なものを紹介していきます
抗菌薬のイメージを理解するならこちら
参考資料
絶対わかる抗菌薬 はじめの一歩
今回、参考にした資料は絶対わかる抗菌薬はじめの一歩です
抗菌薬に関する資料は大体菌の名前と抗生剤の種類が羅列されていて、グラム陽性菌、桿菌など難しい内容が多いです
この本はカラーではないですが、抗生剤の使い分けが比較的分かりやすく書かれている本になるので、参考にさせて頂きました
もっとねころんで読める抗菌薬②
医者のみでなく看護師にもオススメの抗菌薬に関する参考書です
寝転んで読める抗菌薬は3シリーズあり、どれも抗菌薬の参考書の中では分かりやすくまとめられています
エンピリック治療(エンピリックセラピー)に関する内容は上記のもっと寝転んで読める抗菌薬に多く書かれているため参考にしました
その他のシリーズ
- 寝転んで読める抗菌薬①
- もっともっと寝転んで読める抗菌薬③
エンピリック治療のメリットとデメリット
エンピリック治療の1番のメリットは前述した通り、感染増悪を早期に防ぐことができることです
エンピリック治療は原因菌が判明するまでに用いる抗菌薬です
原因菌が判明するまでは、出来るだけ可能性のあるすべての疾患に対応できるようにするため、抗菌スペクトラムの広い薬剤を選択します
その後、菌が判明した時点でディフィニティブ治療(標的治療)に切り替え、最適な抗菌薬を投与します(※1)
エンピリック治療(経験的治療)からディフィニティブ治療(標的治療)に抗菌薬を狭域化していく流れをデ・エスカレーションといいます
エンピリック治療を適切に行うことで、感染が血液を介し全身に回る敗血症などの重篤な感染を予防することができます
エンピリック治療のデメリットとしては、副作用、耐性菌の誘導、コストの増加などがあります
抗菌スペクトラムが広い薬剤は常在菌叢を変化させ、腸炎などの副作用を引き起こす可能性があります
また、中途半端な投与や広範囲の抗生剤は耐性菌の増加を招きます
耐性菌とは、ある一部の薬剤に耐え得る力を持つ細菌のことであり、その場合違う種類の抗生剤を投与する必要があります
耐性菌ができる原因としては、抗菌薬で細菌が死滅する前に投与を終了することや、不必要な抗生剤の投与、原因菌への効果がない抗生剤の投与などがあります
多剤耐性緑膿菌など色々な薬剤に対抗できる細菌が増えると、感染は一気に重症化、拡大していくので抗菌薬の狭域化が重要になります
エンピリック治療における抗生剤の使い分け
疾患 | 抗生剤 | 備考 |
膀胱炎 | レボフロキサシン | 単純性では3日間、複雑性では7〜14日間投与 |
腎盂腎炎 | レボフロキサシン | 7〜14日間投与 |
複雑性腎盂腎炎(重症) | タゾピペor セフトリアキソン | |
尿路感染症 | セフトリアキソンorセフメタゾール | |
AFBN | セフトリアキソン | 2g/日を2週間程度投与 |
胆管炎 胆嚢炎 | タゾピペ | 腸内細菌(E-coilなど) 腸球菌 嫌気性菌 |
市中肺炎 | セフリアキソンor スルバシリン | 重度であればジスロマックを併用 |
誤嚥性肺炎 | スルバシリン | |
髄膜炎 (生後1ヶ月未満) | セフォタックス ビクシリン | |
髄膜炎 (1ヶ月〜50歳) | セフトリアキソン バンコマイシン | |
髄膜炎 (50歳以上) | セフトリアキソン バンコマイシン アシクロビル | βラクタム系は15%しか 髄液移行しない |
骨髄炎 (小児) | バンコマイシン セフトリアキソン | 6週間投与のため早期デ・エスカレーション |
外傷後骨髄炎 | バンコマイシン セフェピムor タゾピペ | 〃 |
術後骨髄炎 | バンコマイシン セフェピムor タゾピペ | 〃 |
脳膿瘍 | タゾピペorセフトリアキソン バンコマイシン アネメトロ | |
前立腺炎 | ニューキノロン系 | その後レボフロキサシンを 21日投与 |
膿胸 | スルバシリン orメロペネム | |
虫垂炎 | スルバシリン | |
消化管穿孔 | タゾピペ | |
蜂窩織炎 | セファゾリン | |
ガス壊疽 | メロペネム クリンダマイシン バンコマイシン | |
帯状疱疹 | アシクロビル | |
インフルエンザ | ラピアクタ | |
好中球減少症 | セフタジジムor セフェピム | 状況に応じてバンコマイシン |
急性心内膜炎 | セファゾリン ゲンタマイシン | |
急性心内膜炎 | バンコマイシン ゲンタマイシン | MRSA保菌者 |
亜急性心内膜炎 | ペニシリンG ゲンタマイシン | |
丹毒 | セファクロル | 7日間投与 |
SPACE | セフェピムor タゾピペ |
補足 細菌に対する抗生剤治療
菌 | 抗生剤の系統 | 薬品名 |
ESBL | カルバペネム系抗生剤 | メロペネム |
MRSA | グリコペプチド系抗生剤 | バンコマイシン |
MSSA | セフェム系抗生剤 | セファゾリンNa |
CDI(※) | グリコペプチド系抗生剤 | バンコマイシン タソピペ |
レジオネラ | ミノサイクリン |
補足 セフェム系抗菌スペクトラム
世代 | 抗菌薬 | 特徴 |
第一 | セファゾリン | MSSA.E-coilなどに適応 緑膿菌には効果なし |
第二 | セフメタゾール | インフルエンザ菌に適応 モラクセラもカバー ESBLにも効果あり |
第三 | セフトリアキソン | 肺炎球菌に適応 髄液移行性で髄膜炎にも使用可能 緑膿菌には効果なし |
第四 | セフェピム |
※随時更新していきます
医療関連感染におけるSPACE
医療関連感染で発生する代表的なグラム陰性菌の頭文字をとるとSPACEになります
SPACEが疑わしい時の抗菌薬はセフェピムまたはタゾピペです
- Serratia
- Pseudo monas
- Acineto bacter
- Citrobacter
- Enterobacter
経口投与への切り替え
スルバシリン | ・アモキシリン ・オーグメンチン |
セファゾリン | ・セファレキシン |
セフメタゾールとセフトリアキソンは経口での吸収率が悪いため内服への切り替えは困難
まとめ
抗生剤は菌の種類で選択するのが基本ですが、緊急時には感染拡大防止のため早期に抗生剤を投与します
その際に疾患や症状から菌を予測するのがエンピリック治療であり、尿路感染症、肺炎、更には全身に菌が回る敗血症などに非常に効果があります
抗生剤は初回投与の時には副作用が発現しやすく、初回投与時に15分ほどベッドサイドで観察を行うこともあります
緊急時の投与だからこそ、感染症による症状か抗生剤の副作用による症状かも見極め、適切なエンピリック治療とその対応を行うことが重要です