【救急看護】月刊ナーシングから読み解く敗血症における対応

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医療従事者であれば一度は耳にしたことがある敗血症ですが、敗血症は症状であり疾患ではありません

多種多様な細菌等の病原体が、どこかの臓器で感染症を引き起こし、全身に菌が回ることで引き起こされる敗血症は死亡率も高くとても危険な状態です

たかが感染症されど感染症であり、肺炎や尿路感染など馴染みのある感染症であっても決して油断してはならないということです

参考資料

ガイドラインの改正は基本的に2年か4年ごとに行われており、2020年には敗血症のガイドラインが変わったため今回月刊ナーシングでピックアップされていました

敗血症とは

敗れる血の症状と書いて敗血症ですが、敗血症とは血液を介し全身に細菌が周り多臓器不全やショックなどの病態を引き起こす総称を言います

敗血症とは感染症に対して制御不可能な宿主反応が生じ、生命を脅かす臓器障害を伴うことと定義されている

敗血症の死亡率は約20%、敗血症性ショックに移行すると死亡率は約46%まで上昇します

英語ではSepsis(ゼプシス)、敗血症性ショックをseptic shock(ゼプティックショック)と言うことが多いです

敗血症の機序としては外傷や感染症などで細菌が侵入すると細菌をやつけるために、炎症性サイトカインなどが動き出します

その過程で細菌の元へ少しでも多くの物質を送れるように毛細血管は拡張し、浮腫や腫脹につながります

その血管との繋がりを利用し、細菌は逆行性に血管内へと侵入することで、全身へ菌を拡散させます(図1)

図1 感染症から敗血症

菌は感染周囲にエンドトキシンと呼ばれる毒素を分泌し、血管拡張作用を促進させます(warm shock)

抹消血管も拡張により抹消循環血液量は増加、反比例的に増加や中枢の血流量が減少します

すると、血管収縮作用が働き、抹消血管への血流を減少させることで昇圧を図ります(cold shock)

敗血症はエンドトキシン(毒素)の血管拡張作用によるworm shockと多臓器不全により末梢血管を収縮させるcold shockに分けられる

敗血症の症状

敗血症の症状は感染に伴う諸症状に加え、血圧が低下しショックになります

敗血症性ショックは十分な輸液を行っても収縮期血圧90mmHg未満または通常の血圧より40mmHg以上の低下が認められた場合を指します

ショックの5P

冷汗perspiration
脈触知不良pulselessness
呼吸不全pulmonary insufficiency
蒼白pallor
虚脱prostration

その他主な症状

  • 発熱/低体温
  • 心拍数上昇
  • 浮腫/体液増加
  • 高血糖(解糖系の進行)
  • 低血圧
  • 高乳酸血症
  • 毛細血管再充満時間(CRT)延長
  • まだらな皮膚

主な検査データの変化

  • 白血球数増加/減少
  • 未熟型白血球増加
  • CRP上昇
  • プロカルシトニン/プレセプシン上昇
  • 低酸素血症
  • 尿量減少
  • 腎機能異常
  • 凝固異常
  • 血小板減少
  • 高ビリルビン血症

プロカルシトニンは重症細菌性感染症に特異的なマーカーで、反応時間がCRPに比べて早く半減期が長いのが特徴

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Nurse

敗血症の症状や検査データの異常は本当に多彩で、全身に様々な変化をもたらすため、より全身状態を捉えたアセスメント能力が必要です

敗血症とアニオンギャップ(AG)

動脈血ガスにて評価されるアニオンギャップ(以下AG)とは代謝性アシドーシスの評価に用いられる項目です

アニオンギャップの計算式

ナトリウムイオン−(クロールイオン+重炭酸イオン)

アニオンギャップはナトリウムイオンから血中に多いクロールイオンと重炭酸イオンを引いた数で求められます

マイナスイオンとプラスイオンは釣り合う関係にあるため、クロールイオンと重炭酸イオンを引くことで、ケトン体や乳酸などのイオンの量を推測することができます

AGの基準値は12±2mEq/Lでこれより上昇している場合は代謝性アシドーシスの可能性が高いです

AGが上昇する病態

  • 腎不全
  • 糖尿病性ケトアシドーシス
  • アルコール性ケトアシドーシス
  • 乳酸アシドーシス

乳酸値が上昇する敗血症や敗血症性ショックではAGが増大することが多いです

敗血症の重症度評価

敗血症の評価としてよく使われるのはSOFA scoreとquick SOFA scoreです

SOFAとはSequential Organ Failure Assessmentの頭文字をとったものになります

SOFA scoreは多数の臓器障害を点数化して評価するものであり、多臓器不全を伴う感染症である敗血症に適した評価指標となります

敗血症の診断においても感染症もしくは感染症の疑 いがあり、かつSOFA scoreの合計2点以上の急上昇と定義されているので必須の知識です

quick SOFA(qSOFA)は特異度は決して高くないですが、簡易的に使えて評価できるため一般病棟や外来で容易に行える評価です

SOFA scoreは集中治療室や初期評価など集中的にケアを行う場所などで活用することが多いです

SOFA score

点数→
項目↓
0点1点2点3点4点
呼吸器
PaO2/FiO2(mmHg)
≧400<400<300<200
+呼吸補助
<100
+呼吸補助
凝固能
plt(×10/3乗/μL)
≧150<150<100<50<20
肝機能
Bil(mg/dl)
<1.21.2〜1.92.0〜5.96.0〜11.9>12.0
循環動態
MAP(mmHg)
≧70<70DOA<5γor
DOB使用
DOA5.1〜15
orAd≦0.1γ
orNOA≦0.1γ
DOA>15γ
orAd>0.1γ
orNOA>0.1γ
中枢神経/GCS1513〜1410〜126〜9<6
腎機能
cre(mg/dl)
<1.21.2〜1.92.0〜3.43.5〜4.9>5.0
尿量(ml/日)<500<200

SOFA scoreの使用するタイミングはICU入室時と入室後48時間などが一般的ですが、入院前の救急外来での評価やその他状態が変化した際にも使用します

9点以下では死亡率が低く11点以上では死亡率が95%、ICU入室後48時間以内で増加する場合には死亡率が増加すると言われています

検査データをもとに算出するスコアリング方法のため、より多臓器不全を客観的に評価できます

quick SOFA score

項目点数
収縮期血圧100mmHg以下1
22回/分以上の頻呼吸1
GCS15未満または
2以上低下する意識障害
1

quick SOFA scoreでは3項目のうち2点以上で敗血症と判断できます

項目数も少なく比較的覚えるのも容易な簡易的な評価です

しかし、出血に伴うショックなどでも上記項目に当てはまることから、敗血症に対して特異度の高い評価ではありません

そのため、体温や白血球数(WBC)などは評価項目にありませんが、感染症を疑う所見があることを前提とし、quick SOFA scoreを使用し評価すると適切に判断できることが多いです

血圧と敗血症

敗血症の症状として上記で挙げたように血圧低下があり、quickSOFAの項目にも記載されていますが、血圧が維持できているから軽症とは限りません

血圧低下にこだわらず代謝性アシドーシスの進行、血中乳酸値の上昇を認めた場合に、初期蘇生を開始する(1A)

日本版敗血症診療ガイドライン

敗血症性ショックは輸液蘇生だけでは血圧を維持できず、ノルアドレナリンなどの血管収縮薬を必要とし、さらに血中乳酸値が2mmoL/L(18mg/dL)を超える状態として敗血症と区分すると定義されています

血行動体が破綻した敗血症ショックの状態ではなく、血中乳酸値の上昇などからショックを予測して治療することが重要です

血中乳酸値(lactate)の基準値は0.4〜18mmol/L(4~16 mg/dl)

敗血症における治療

敗血症の主な症状は感染に起因する諸症状と血圧低下などのショックです

そのため、敗血症の主な治療は感染症に対する抗生剤の投与と敗血症に対する輸液昇圧剤の投与になります

また、敗血症性ショックに伴うアシドーシスの是正のため頻呼吸なども出現することが多く、呼吸状態によっては酸素投与も必要となります

平均血圧>65 mmHg,尿量>0.5mL/kg/時、中心静脈血酸素飽和度(Scv02)≥70%,血中乳酸值低下,代謝性アシドーシスの少なくとも6時間以内の改善を目標とする(1A)

日本版敗血症ガイドライン

使用する主な薬剤は以下の通りです

  • 抗生剤(ピペラシリンタゾバクタムなど)
  • ノルアドレナリン
  • バソプレシン(ピトレシンなど)
  • ステロイド(ハイドロコートンなど)

昇圧剤は初期にノルアドレナリンから開始し、血圧が維持できない場合には末梢血管を収縮させるバソプレシンや副腎皮質ステロイドを投与します

最近の研究では、ノルアドレナリンから開始することが多いですが、漸減する際もノルアドレナリンから減量し、最後にバソプレシンを減量する方が予後が良いと言われています

敗血症の看護

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Nurse

敗血症における看護のポイントをまとめました

  • 血圧コントロール
  • 全身の臓器障害に対する看護
  • 感染症に対する看護

敗血症における看護のポイントを大きく3つに分けて解説していきます

敗血症における看護は上記3つのポイントに加えて、中心静脈カテーテル(CVカテーテル)挿入や血液培養を含んだ採血などの検査の介助が必要です

敗血症における血圧コントロール

血圧コントロールは敗血症で重要な治療の一つであり、モニタリングを行う看護師の必須の役割です

敗血症における初期の治療法は、EGDTに準じた急速大量輸液療法と血管収縮薬の使用です

しかし、ここで注意して欲しいのが時間の経過とともにショックの病態が変化していくことです

敗血症初期は過剰に産生された一酸化窒素(NO)や名種血管拡張物質により、血管抵抗が低下した血液分布異常性ショックを呈しworm shockとなります

しかし、時間の経過ともに血管内皮細胞障害が進行すると血管拡張物質の産生は低下し、逆に血管収縮作用による末梢血管収縮作用からcold shockへ移行します

worm shockの際は末梢血管拡張に伴い拍出量をあげようと高心拍出量状態となりますが、cold shockになると後負荷が増大するため心拍出量は減少します

近年では、敗血症性ショックに伴う心筋の拡張障害が注目されており、左室拡張障害が独立した予後予測因子であるとも言われています

そのため、急速大量輸液療法は心機能増悪につながる場合もあるため、慎重に検討する必要があります

血圧管理のポイントは平均血圧(MAP)>65mmHgを維持することです

心臓の拍出量を示唆する収縮期血圧に対し、平均血圧は臓器への灌流を評価します

個人差もあり一概には言えませんが、ショックなどの病態ではMAPを保つことで臓器障害を防ぎます

敗血症における臓器障害の看護

敗血症では全身へ毒素が回ることや血圧の低下などの諸症状により全身の臓器障害が起こることがあります

重要臓器が機能不全に陥る病態を多臓器不全(multiple organ failure/MOF)といい、多くの場合転帰は死に至ります

主な臓器障害は肺不全、腎不全、肝不全、消化管出血、播種性血管内凝固症候群(DIC)などが挙げられ、それらの対応をいかに適切に行うかで予後が左右されます

臓器障害における看護は全身状態の早期把握です

敗血症では早期に輸液を行うため、投与量(IN)に対する尿量(OUT)バランスの把握、その他、腹部症状や呼吸管理を行っていきます

特に呼吸管理は重要な看護の焦点であり、交感神経の亢進や発熱などの代謝亢進に伴う酸素需要の増大、代謝性アシドーシスに対する代償機転などでは、不安定な呼吸パターンを呈することが多いです

更に、高サイトカイン血症、好中球増加と肺への遊走、炎症細胞による肺への損傷、血管透過性亢進型肺水腫の発生などにより急性呼吸窮迫症候群(ARDS)を合併することも少なくありません

敗血症を全身状態の悪化リスクが高い病態であることを踏まえ、頻呼吸や呼吸パターンの変化、酸素飽和度の低下など呼吸状態増悪因子を見つけた場合は早期に報告・対応を行うことが大切です

  • MOFを考慮して腎臓.肝臓.肺.消化器など全身状態を観察
  • 呼吸状態増悪時には早めの酸素投与や気管挿管の準備

敗血症における感染症の看護

敗血症は血液を介する全身への感染であり、感染のコントロールが必要となります

感染症への対応は感染源の把握と適切な抗生剤の投与に限られますが、看護の焦点は感染により症状がどのように変化しているかを捉えることです

感染におけるバイタルサインの把握にはSIRS(全身性炎症反応症候群)の診断項目を参考にすると良いです

SIRSとは侵襲に伴い炎症性サイトカインが大量に放出することで生じる全身性炎症反応の総称であり、大量出血や手術、熱傷などに加えて敗血症などの感染症も含まれます

成人におけるSIRSの診断指標

項目基準
体温38度以上または36度以下
脈拍90回/分以上
呼吸20回/分以上
またはPaCO2が32Torr以下
白血球数12,000/以上または4,000/以下
あるいは未熟顆粒球が10%以上

上記診断項目の2項目以上が当てはまる場合はSIRSと診断されます

併せて緊急レベルの把握として日本版緊急度判定支援システム (JTAS)を参考にするとより感染の状態がスムーズに把握できます

JTAS 発熱

発熱>38度JTASレベル
免疫不全:好中球減少、化学療法やステロイド療法を含む免疫抑制剤投与2
敗血症疑い:SIRS診断、または循環動態不安定、中等度呼吸障害または意識障害2
具合悪そう:SIRS診断満たさないが、具合悪そう(紅潮、傾眠、不安、不穏)3
具合良さそう:SIRSのうち発熱のみ陽性であり、苦痛なく落ち着いている4

これらの指標を参考に感染状態を把握してアセスメントしながら、適切に抗生剤を投与していくことが感染への看護として重要です

敗血症とガイドライン

長い歴史の中、敗血症には早期対応が重要とされてきておりEGDT(Early goal directed therapy)を参考に治療を行ってきました

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しかし、日本では日本独自の日本版敗血症ガイドライン(J-SSCG)が存在します

そのガイドラインが2020年に新たに改正され、2020年のガイドラインで加わった項目としては以下の様なものがあります

  • 神経集中治療
  • 患者と家族のケア(Patient and family centered care)
  • 敗血症治療体制(Sepsis Treatment)
  • ストレス潰瘍

上記4領域が新たに追加となり、内容も明確かつ分かりやすく修正がされています

体温管理、ICU-AW、PICS、小児、神経集中治療の領域は日本独自で取り入れている領域であるため、それらの点も見どころです

早期治療が重要である点は変わりないですが、抗菌薬の早期投与なども含めガイドラインは医療の進歩とともに変わっていきます

その他、免疫グロブリンやトロンボモジュリンなどに関してもガイドラインの改正と共に変更されています

まとめ

  • 敗血症とは感染症を起因として全身に菌が回ることにより循環不全を引き起こす状態
  • ショックはworm shockとcold shockに分けられる
  • 評価はSOFAスコアやquick SOFAを使用
  • 治療は抗生剤と昇圧(ノルアドレナリン、バソプレシン、ステロイド)
  • 日本独自のガイドライン(J-SSCG)が2020年に改訂され新たに4領域が追加

敗血症は死に至る危険性もある状態であり、感染症への早期対策や敗血症の可能性を考慮した早めの対応が重要となります

身近にある感染症が命を奪う重い病気になってしまうこともあるため、早期の対応や重症度の判断・アセスメントが大切になってきます

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