はじめに

本日は急変対応として準備されていることの多いニフェカラント(シンビット)について紐解いていきます。
急変時の抗不整脈薬として用いられるニフェカラント(シンビット)ですが、心室頻拍(以下VTと略)の第一選択はアミオダロンが主流です。
しかし、ニフェカラント(シンビット)を救急カートに入れている病院も見受けられるため、緊急時の使用に備えて使い方などを知っていると便利です。
本記事ではニフェカラント(シンビット)とアミオダロンについて紹介していきます。
参考資料
ICLSコースガイドブック
こちらの本では急変時に使用する薬についても紹介されています。
病棟でよく使われる「くすり」
こちらは抗不整脈薬だけでなく、病棟で使用することの多い薬剤をフルカラーで分かりやすくまとめています。
薬理など作用機序も含めてまとめているため、薬剤の使い分けを学ぶにも重宝する一冊です。
心停止と抗不整脈薬

まずは、心停止および致死性の心室性不整脈に関して見ていきましょう。
心停止とは言葉の通り心臓が止まっている状態を示しますが、詳しく紐解くと心臓が全身に駆出できない状態を表します。
心臓が小刻みに動いている場合や弱い場合には、全身に血液を供給できないため心停止と判断されます。

人が生きられない時は全身に酸素がなくなる時です。
心臓が弱く動いていたとしても、全身に酸素が回らなければ生きられません。対して心臓が動いていなくても人工心肺(PCPS)などで全身に酸素が供給されている間は蘇生することが可能です。
抗不整脈薬はそれらの心臓の乱れを治すための薬剤であり、ニフェカラントとアミオダロンは致死性の不整脈に有用性が示されています。
ニフェラカントとアミオダロン
ニフェカラント(シンビット)はVTなどの難治性頻脈性不整脈に使用する薬剤ですが、類似する薬剤としてアミオダロンがあります。
どちらもVaughan Williams分類のクラスIIIに属する心室性不整脈治療剤ですが、代謝経路や副作用などが異なります。それぞれの特徴と違いを紹介していきます。
ニフェカラント(シンビット)とは
| 項目 | 特徴 |
|---|---|
| 一般名 | ニフェカラント塩酸塩 |
| 商品名 | シンビット |
| 容量 | 50mg |
| 薬品種別 | 劇薬 |
| 分類 | Ⅲ群 カリウムチャネル遮断薬 |
| 代謝 | 腎代謝 |
| 初回投与 | 1回0.3mg/kg静注 |
| 追加投与 | 初回で効果見られた場合 0.4mg/kgを持続投与 |
| 副作用 | 不整脈(LQTS),静脈炎 |
| 開発 | 日本 |
ニフェカラントはカリウムチャネル遮断薬に分類されます。カリウムチャネル遮断(特にⅠKr)の作用により、活動電位持続時間と有効不応期を延長させることで難治性のVTを抑えます。
除細動ないしアドレナリンを使用しても改善しない、難治性の心室性不整脈に使用されます。
【使用方法】
- バイアル内に50mg(細粒)で組成
- 生理食塩水(生食)50mlで希釈すると1mg/1mlとして使用可能
- 例:50kg→0.3mg×50kg=15mg/15ml投与
アミオダロンとは
| 項目 | 特徴 |
|---|---|
| 一般名 | アミオダロン塩酸塩 |
| 商品名 | アミオダロン・アンカロン |
| 容量 | 150mg/3ml |
| 薬品種別 | 劇薬 |
| 分類 | Ⅲ群 カリウムチャネル遮断薬 |
| 代謝 | 肝代謝 |
| 初回投与 | 1回300mg/6ml(2A)または5mg/kg静注 ※致死性不整脈に対する初回投与 |
| 追加投与 | 150mg/3mlまたは2.5mg/kg静注 |
| 副作用 | 不整脈,肺繊維症,眼症状,甲状腺機能障害, 肝障害,徐脈,静脈炎 |
| 開発 | フランス |
アミオダロンはニフェカラント同様カリウムチャネル遮断薬として分類されていますが、ナトリウム遮断作用など作用が複数あります。
- 心筋のkチャネル遮断作用
- Na+チ ャネル遮断作用
- Ca2+チャネル遮断作用
- 抗アドレナリン作用
アミオダロンはニフェカラントと異なり肝代謝です。肝代謝後に胆汁排泄されるため腎機能低下時や透析でも常用量が使用可能です。
【使用方法】
- 生理食塩水を含め多くの薬剤と配合変化を起こしやすい
- 配合変化を起こさない5%ブドウ糖20mlで希釈
- 300mg/6ml(2A)+5%ブドウ糖20ml投与
ニフェカラントとアミオダロンの使い分け
それぞれの特徴が分かった上で、主な使用用途を特徴を踏まえて説明していきます。
心室性不整脈の第一選択はアミオダロン
VTの中でも脈が触れない(全身に酸素を供給できない)VTを無脈性VT(pulseless VT)と言います。無脈性VTやVFに対しての第一選択はアミオダロンが一般的です。
アミオダロンは1970年にヒトに対して効果を示し海外で使用されるようになりました。日本でも1992年には承認可能になりましたが、心室性の致死性不整脈に対して認可が降りたのは2013年です。
対して、ニフェカラント(シンビット)は日本で開発された薬剤のため、1999年の承認以降から心室性の致死性不整脈に使用可能です。
致死性不整脈に対する日本での承認はニフェカラントの方が早かったですが、豊富なエビデンスや長きに海外でも使用されている安全性などから日本でもアミオダロンが主流となっています。
救急カートにはニフェカラント(シンビット)
救急外来での使用率はアミオダロンの方が圧倒的に多い反面、ニフェカラントを救急カートに入れている病院も存在します。
ニフェカラントはバイアルのため割れにくく、室温保存も可能です。
しかし、アミオダロンはアンプルであり、添付文書にも記載されていますが25℃以下の環境で遮光保存となります。

都心部の救命センターなどでは、冷所に保管している病院もありました。
また、救急カートに入れて移動することで、破損のリスクなどを考えるとアミオダロンよりニフェカラントの方が管理の面でも容易と言えます。
副作用によるLQTS
ニフェカラントとアミオダロンはどちらも副作用がありますが、アミオダロンの方が肺繊維症などを含め心外性の副作用が多岐にわたります。
対して、ニフェカラントは心外性の副作用はアミオダロンと比べて少ないですが、QT延長する可能性が示唆されています。
心室性不整脈の治療に使用しますが、副作用によってQT延長症候群(LQTS)を引き起こすと、トルサード・ド・ポワンツ(Tdp)と言われる多形性心室頻拍を発症します。
致死性不整脈の治療においては心外性の副作用よりも、致死性不整脈の誘発を危惧する観点からアミオダロンを第一選択とする可能性も高いです。
おわりに

ニフェカラントとアミオダロンの特徴をまとめると以下のようになります。
- 緊急時のVTに対する治療薬はニフェカラント(シンビット)とアミオダロン(アンカロン)
- ニフェカラント(シンビット)はバイアルで保管が行いやすいため、救急カートに採用されやすい
- 海外も含めてVTの第一選択はアミオダロン(アンカロン)
- ニフェカラント(シンビット)は0.3mg/kgで投与
- アミオダロンは300mg +5%ブドウ糖20mlで希釈して投与
急変は予期せぬ時に起こります。特に急いでいてアンプルを割ったりするリスクもゼロではないです。
アミオダロンは体重換算なくある程度投与も可能であり、第一選択として優先的に使用されています。しかし、エビデンスなどが今後ニフェラカントも豊富になることで、ニフェカラントがより使用されるようになる可能性も考えられます。
急変時の薬剤は用法・容量を適切に覚えて、迅速に投与できるよう備えておくと便利です。

緊急時の薬は全看護師必須の知識なので、この記事を機会に急変時の薬剤に興味を持ってもらえると嬉しいです。


