はじめに

本日は血液検査の中でも、赤血球に関連するデータと臨床に即した使い分けを紹介していきます。
大まかに検査データで指標にされる血球は白血球、赤血球、血小板ですが、検査データではさらに細分化した項目を見ることができます。
流し見程度で見逃されることが多い血球の細かい指標ですが、理解していると白血球、赤血球、血小板がどうして変化しているのか理解することもできます。
検査データをより理解するための知識として、血本記事では血球と病態の関連性を中心として紐解いていきます。
参考資料
病気がみえるvol.5 血液
病気がみえるシリーズの一つであるvol.5血液です。病気がみえるシリーズは分かりやすくまとまっており、必要な情報が端的に記載されています。
内容の幅が広いためページ数が多く、持ち運びには重たいため注意が必要です。
書籍名 | 病気がみえるvol.5 血液 |
出版社 | メディックメディア |
出版年月日 | 2023年11月頃 |
ページ数 | 352ページ |
検査値の読み方ポケット辞典
成美堂出版の検査データガイドブックです。病棟勤務の時はこれを参考にしている方が多いです。

私もHCU勤務の時はこの参考書を利用していました。
検査項目がページごとに分かりやすく掲載されており、フルカラーで価格も比較的安価です。
また、書籍名がポケット辞典とあるようにポケットサイズで持ち運びはしやすいですが、366ページと少し厚みはあるためやや重たいのが特徴です。
書籍名 | パッと引けてしっかり使える 検査値の読み方ポケット事典 |
出版社 | 成美堂 |
出版年月日 | 2023年4月頃(第5版) |
ページ数 | 366ページ |
主要な検査データと主な病態


RBC,Hb,Hctはどれも同じ貧血の指標ですが、それぞれ特徴があるためその特性を理解することが大切です。
病態に伴い赤血球に関連する検査データがどのように変化するのか紐解いていきます。
赤血球に関連する検査データ
赤血球に関連する検査データは主に以下のようなものがあります。
- 赤血球数(RBC)
- ヘモグロビン(Hb)
- ヘマトクリット(Ht)
- 網赤血球(Ret)
- 平均赤血球面積(MCV)
- 平均赤血球ヘモグロビン量(MCH)
- 平均赤血球ヘモグロビン濃度(MCHC)
- 有核赤血球(NRBC)
- 赤血球分布幅(RDW)
それぞれの指標の使い分けは以下のようになります。
検査項目 | 疾患 |
---|---|
RBC | 低下→貧血 |
Hb | 低下→貧血 上昇→赤血球増多症,脱水 |
Hct | 低下→貧血 上昇→赤血球増多症,脱水 |
Ret | 上昇→溶血性貧血,出血など 低下→再生不良性貧血など |
MCV | <80→小球性 80〜100→正球性 100< →大球性 |
MCH | <25→低色素性 25〜35→正色素性 |
MCHC | <30→低色素性 30〜35:正色素性 |
NRBC | 上昇→出血,溶血,化学療法,白赤芽球症 |
RDW | 上昇→栄養素欠乏,慢性肝疾患 低下→特になし(稀) |
貧血の主な疾患
- 鉄欠乏性貧血
- 鉄芽球性貧血
- 巨赤芽球性貧血
- 再生不良性貧血(AA)
- 溶血性貧血
- 遺伝性球状赤血球症(HS)
- 自己免疫性溶血性貧血
- 発作性夜間ヘモグロビン尿症
- 骨髄異形成症候群(MDS)
- サラセミア
- 二次性貧血(腎性貧血などを含む)
- 出血性貧血
貧血の原因は種々多様です。その中でも検査結果から推測が可能な疾患を紹介していきます。
赤血球の大きさと血色素
赤血球数、ヘモグロビン、ヘマトクリットに関連する検査データに視点をおいて整理していきます。
RBC,Hb,Hctの低下と使い分け

結論から言うと貧血であることを診断するだけであれば、Hbの検査値のみで十分です。しかし、RBC,Hb,Hctは全て貧血の評価において重要な指標となります。
酸素を運搬する役割を担っていることからヘモグロビン(Hb)が、貧血の診断基準とされていることがほとんどです。そのため、貧血であるかないかを診断するためにはヘモグロビンの値が低下しているかで判断できます。
しかし、貧血の中にも溶血性貧血や鉄欠乏性貧血など種類があります。それらの貧血となる病態を予測するためには、RBCやHctの検査データが重要となってきます。

RBC,Hb,Hctのいずれかが低下している場合は貧血を疑います。その上で、貧血の原因を考えた時にRBCやHctが重要になります。
Hbに加えてRBCやHctの検査データが揃うことで、赤血球のサイズや濃度を測ることが可能になります。
Hctは血液中に含まれる赤血球の濃度を表す指標ですが、HctにRBC(赤血球の数)を組み合わせると、赤血球単体の平均的なサイズ(容積)を導き出すことができます。これがMCVです。
MCV(平均赤血球容積)の計算式
- MCV=(Ht/RBC)×1000
また、血液中における赤血球の体積を割合で示したヘマトクリット(Hct)とヘモグロビンの量(Hb)を組み合わせると赤血球1個単位のヘモグロビン濃度が分かります。これがMCHCです。
MCHCの計算式
- MCHC=(Hb/Ht)×100
RBC,Hb,Hctの低下は、単体では貧血を示唆する指標でしかないですが、組み合わせることで濃度や大きさを描出することができ、貧血の原因を推察することができます。
※MCHもMCHCと類似した役割を果たしますが、臨床ではMCHCを用いることが多いです。
RBC,Hb,Hctの上昇と使い分け

赤血球が多いことを指摘されることは比較的少ないですが、濃度が著しく濃くなる際には注意が必要です。
赤血球が増多すると赤血球増多症と呼ばれる病態を引き起こします。
赤血球が増えることで血液の粘性が強まり、循環が悪くなります。それに伴い、眩暈(めまい)や頭痛などの諸症状や血栓などを形成するリスクが上昇することがあります。
また、相対性血液増多症として、脱水などの際にも血漿成分が減少することで赤血球の検査データが上昇します。
診断としては、HbまたはHctの上昇が基準となっているため、RBCの上昇があった際には併せてHbとHctの上昇も確認すると良いです。
また、赤血球が上昇した際には症状の確認などが大切となります。
病態によるMCVの変化
MCVは前述の通り赤血球の大きさを表しています。
小球性貧血はヘモグロビンを構成するヘムまたはグロビンの合成異常による影響が大きいです。小球性貧血の代表的な病態として鉄欠乏性貧血があります。
小球性貧血に血清フェチリン、血清鉄の低下、TIBC(トランスフェリン)の上昇などがある場合には鉄欠乏性貧血の可能性が高いです。
大球性貧血は赤芽球のDNA合成異常によって引き起こされます。ビタミンB12や葉酸の減少に伴う巨赤芽球性貧血などが代表的です。
どちらも低下していない場合には骨髄異形成症候群(MDS)や溶血性貧血などの赤芽球造血亢進状態の可能性が高いです。
病態によるMCHCの変化
MCHCは赤血球の血色素を表しており、低色素のほとんどが、鉄欠乏性貧血です。
そのため、小球性低色素性貧血を認めた場合には鉄欠乏性貧血の鑑別を積極的に疑うことをオススメします。
赤血球の成熟過程
赤血球の成熟過程を踏まえて網赤血球(Ret)および有核赤血球(NRBC)について紐解いていきます。
赤血球の成熟
赤血球は赤芽球系前駆細胞から生成され、成熟までに前赤芽球→好塩基性赤芽球→多染性赤芽球→正染性赤芽球→網赤芽球→成熟赤血球の過程を辿ります。
赤血球は核を持たない構造になっており、網赤血球に成熟する過程で核が放出され無核となります。
病態によるRetの変化
網赤血球は成熟赤血球の前の過程であり、網赤血球までが骨髄で成熟されます。
網赤血球が増加する要因は赤血球の減少が多いです。赤血球の大きさは正常(正球性)で網赤血球が上昇している場合は赤血球が減少している可能性を考えます。
多い病態としては出血や溶血性貧血などが考えられます。Retが上昇している時は出血の有無も鑑別要因として重要となります。
病態によるNRBCの変化
赤血球は核を持たないことでいくつかのメリットがあります。
- 中央がへこんでおり表面積が大きくなることで、酸素の交換が容易になる
- 無核になることで、狭い毛細血管なども通過することができる
- 核の分のスペースをヘモグロビンを運ぶのに活用することができる
これらの理由から通常は無核の成熟赤血球あるいは網赤血球が血管内に放出されますが、それ以前の有核赤血球が放出される場合はNRBCとして検出されます。
NRBCは継続する溶血や急激な出血、化学療法などを含めた骨髄への強いストレスがかかった際に上昇します。
白赤芽球症などが代表的な病態であり、NRBC上昇と共に幼若白血球が血液内に増加します。
白赤芽球症骨髄へのストレスなどが主な原因であり、骨髄の造血細胞障害や脂肪塞栓による骨髄壊死などが疑われます。
赤血球の分布幅
赤血球の大きさの均一性を描出したものがRDWですが、赤血球の大きさが不均衡になる要因としては栄養状態の悪化または糖尿病、心不全、炎症性疾患などの慢性疾患や肝疾患などで上昇します。
MCV(赤血球の大きさ)も併せてみることて、MCVが低下(血球が小さい)場合には鉄欠乏性貧血、MCVが上昇(血球が大きい)場合には葉酸やビタミンB12欠乏による巨赤芽球性貧血の可能性が高いです。
また、慢性肝疾患では、コレステロールのエステル化に障害なとの影響で赤血球膜の過剰なとを引き起こし非巨赤芽球性大赤血球症を引き起こすためMCVは上昇します。
おわりに

血球の検査データを深く知ることで様々な病態を鑑別することができます。
赤血球に関連する検査データから推測できる病態をまとめました。

貧血とは病態の総称であり溶血性貧血などもさらに原因疾患が種々あります。しかし、検査データを把握することで身体の中で貧血が起こっている原因を模索することがきます。
今までHbのみで貧血を見ていた場合より、貧血の樹形図が大きくなり、知識の幅も広がると思います。

臨床症状なども併せて確認しますが、検査データを活用することでより深みのある看護に繋がります。