【外傷看護】JPTECとは 病院前救護における外傷戦略

資格のすすめ
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外傷看護や搬送前救護を学びたい方、復習・予習したい方に最適な記事です

JPTECとは一般社団法人JPTEC協議会が主催する資格の一つで、外傷病院前救護ガイドライン(Japan Prehospital Trauma Evaluation and Care)の略称になります

一般社団法人 JPTEC協議会↓

JPTEC協議会
...

JPTECの目的は防ぎえる外傷死(Preventable Trauma Death:PTD)を予防することであり、外傷傷病者に早期治療・処置を施すことができるよう知識・技術を習得していきます

JPTECと似ているものとして日本救急看護学会が主催するJNTECがあります

大きな違いは、JPTECが外傷傷病者の病院前救護に対し、JNTECは搬送後の病院における外傷看護に重きをおいています

また、JPTECは看護師のみでなく救急救命士や消防士、警察官など幅広い職種の人が取得可能です

JNTECについてはこちら

JPTEC資格取得に向けて学んだことや大まかな流れを本記事では紹介していきます

参考資料

JPTECで必要となる参考書です

へるす出版の参考書でJNTEC等と比べるとページ数は少ないですが、JPTECの試験範囲などは網羅されています

JPTEC取得のために準備する参考書としてはこの1冊で十分かと思います

JPTEC取得までの流れ

JPTECは公募はなく、各地域で企画運営されています

そのため、JPTEC協議会の教育コースから自分の地域のところへ移動する必要があります

教育コース

新型コロナウイルス感染症の関係で延期されており、受講は非常に厳しい状況です

受講資格

受講資格は下記のとおりです(一部抜粋)

  • 消防吏員
  • 消防吏員以外の救急救命士
  • 医師
  • 歯科医師(救命救急センター又は救急病院の救急部門に属する者に限る)
  • 看護師及び准看護師
  • 診療放射線技師、臨床検査技師及び薬剤師で、災害医療派遣業務に従事するもの
  • 警察官、海上保安官及び陸上自衛隊、海上自衛隊又は航空自衛隊の自衛官で救急業務、救助業務又は災害医療派遣業務に従事するもの
  • 救急救命士法第34 条第1号から第3号までの規定に基づき救急救命士の受験資格を得ることができる学校若しくは救急救命士養成所、大学医学部又は看護学部及び看護学校(准看護学校を含む)の学生又は生徒で最終学年に属しているもの

コース概要

JPTECのプロバイダーコースは主に朝から夕方までの1日で終わる研修になります

筆記と実技を組み合わせたプログラムで、筆記のみ試験があります

実技は試験はないですが、到達度のチェックは行われます

筆記試験は75%以上で合格のため、ガイドブックでの予習が必要です

資格取得後の登録の有効期間は3年間で、更新する場合には更新用のコースがあります

  • 試験問題は20〜50問程度
  • ⚪︎×形式
  • 事前学習+講習中になることが大多数出題される

事前学習

JPTECの事前学習はJNTEC同様にe-learningになります

各地域のホームページなどからe- learningへのログイン画面は移動し、パスワードを入れるとe-learningを行うことができます

動画の視聴とミニテストを終了すると修了証がPDFファイルで作成され、それを印刷し当日持参します

事前学習の量は動画の数は多いですが、一つ一つの視聴時間は短いためそれ程、苦にはなりませんでした

外傷基礎

JPTECのフロー

初期評価と全身観察を併せて2分以内に行う

ロード&ゴー(重症外傷症例)の対応

  • 高濃度酸素投与(10L以上)
  • 活動性外出血の止血
  • JPTECのフロー
  • 滞在時間短縮のために初期評価・全身観察を2分以内を目標にし、早期搬送に努める
  • 必要に応じて脊椎運動制限(SMR)を行う
  • ドクターヘリやドクターカーを考慮する

状況評価

事前の情報などから状況を評価し、必要であればロード&ゴーを念頭に置き対応します

ロード&ゴーを考慮すべき受傷起点

  • 同乗者の死亡した車両事故
  • 車外に放出された車両事故
  • 車の高度損傷を認める車両事故
  • 車に轢かれた歩行者・自転車事故
  • 5m以上もしくは30km/時以上の車に跳ね飛ばされた歩行者・自転車事故
  • 運転手が離れていたもしくは30km/時以上のバイク事故
  • 高所墜落(6m以上または3階以上を目安)
  • 体幹部の挟まれる事故
  • 機械器具に巻き込まれる事故

※小児墜落は身長の2〜3倍程度の高さ

※ロード&ゴーを考慮すべき状況であり適応ではない

準備する物

確認事項

  • 状況把握
  • 感染防御
  • 負傷者の数
  • 安全確認

初期評価

  • 初期評価は約15秒程度で生理学的な観点を評価
  • 気道確保困難.心肺停止を除いて原則中断しない
  • 呼吸や脈の回数までは問わない

初期評価の流れ

  • 頸椎保護(ニュートラル位に保持)
  • 意識:声かけへの反応
  • 気道:反応.気管偏位.皮下気腫
  • 呼吸:呼吸の深さ・速さ
  • 循環:冷感.湿潤.脈の速さ.触知の有無.活動性出血の有無.
  • 意識:JCSなど

初期評価におけるロード&ゴー

ABCDいずれかに異常を認めた場合ロード&ゴーを判断

全身観察

全身観察の流れ

  • 頭部保持継続
  • 頭部.顔面:外傷.頭痛.出血
  • 頚部確認:外傷.気管偏位.頸静脈怒張.圧痛
  • ネックカラー(NC)装着
  • 胸部:外傷.フレイルチェスト.呼吸音.圧痛.礫音
  • 腹部:外傷.膨隆.圧痛.筋性防御
  • 骨盤:外傷.圧痛.動揺
  • 下肢:外傷.圧痛
  • 上肢:外傷.左右差
  • 背部(バックボード移動時):外傷.圧痛
  • 全脊柱固定

(車内収容後)

  • 酸素投与の継続
  • 保温
  • VS(血圧など)
  • 容態変化時に再度ABCD観察

(詳細観察:全身観察に加える物)

  • 口腔内の出血
  • 肋骨の骨折部位など

TAFXXX

今すぐ命に関わる緊急事態を示した英語の頭文字で、キーワードはTAFな開緊血を見るぞです

TTamponade心タンポナーデ
AAirway obstruction 気道閉塞
FFlail chestフレイルチェスト
XOpen pneumothorax 放性気胸
XTension pneumothorax 張性気胸
XMassive hemothorax胸、腹腔内出血
骨盤骨折、両大腿骨骨折

TAFXXXに沿った全身観察

急速に生命を脅かす病態特徴的な所見
心タンポナーデ頸静脈怒張
気道閉塞顔面の高度な損傷.気道熱傷
フレイルチェスト奇異運動.胸壁動揺
開放性気胸胸部開放創.空気の出入り
緊張性気胸呼吸音左右差.気管偏位.頚部や胸部の皮下気腫.頸静脈怒張
大量血胸圧痛.呼吸音減弱.
腹腔内出血腹部圧痛.腹部膨隆.腹壁緊張
骨盤骨折圧痛.骨盤動揺.下肢長差
両側大腿骨骨折大腿変形.腫脹.動揺.圧痛.下肢長差
脊髄損傷(ショックを伴う)四肢麻痺
その他致死的損傷頭頚胸背部や鼠径部の穿通創.上肢や下肢の轢断

腸管脱出

  • 生理食塩水で湿らせたガーゼなどで被覆
  • 滅菌アルミホイルやラップ材で被覆
  • 処置のタイミングは搬送中の救急車内で行うことを原則とする

フレイル(胸部半周)固定

  • フレイルチェストとは連続する複数の肋骨がそれぞれ2カ所以上分節骨折を起こし連続性を失った状態
  • 胸壁が吸気時に陥没、呼気時に膨隆(奇異呼吸)する
  • フレイルセグメントを用手的に圧迫し、胸壁の動揺と疼痛の軽減に努める
  • 厚手のガーゼかタオルを損傷部にあて、その上から幅の広いテープで胸壁の半周を圧迫固定

穿通性損傷(刺創)

  • 成傷器かタンポナーデ効果により止血に役立っていることもあるため刃物は原則抜かない
  • 丸めたガーゼやタオルなどで両端を挟みテープで止め刃物を固定する
  • 刃物が動くことで内部で円錐状に臓器損傷をきたすこともあるため注意
  • 処置の際、自らを傷つけないように注意する

全身観察におけるロード&ゴー

以下の所見を認めた場合ロード&ゴーを選択

  • 頭頚部.顔面の高度な損傷
  • 頸静脈怒張.気管偏位
  • 頚部.胸部の皮下気腫
  • 胸郭動揺.呼吸音左右差
  • 開放性気胸
  • 腹部膨隆.腹壁緊張
  • 骨盤動揺
  • 両側大腿骨骨折
  • 頭頚部.体幹および上腕.大腿にある穿通創

SMR(脊椎運動制限)

SMRとはSpinal Motion Restrictionの略称であり脊椎運動制限を意味します

脊椎や脊髄を損傷している場合、体動に伴い二次的損傷を引き起こすことで、損傷を悪化させることがあります

二次障害を予防するために、脊椎や脊髄の損傷している可能性がある傷病者には、頚部の固定や全脊柱固定など脊椎運動制限を行います

SMRの方法

  • 初期の頭部固定は声をかけながら反応を待たず用手的に行う
  • 振り返るなど首を動かす動作は避ける
  • 初期評価・先進観察を行い必要であればネックカラー着用
  • 全身観察終了後バッグボードへ移動
  • スネーキングを予防するため体幹から固定(パッケージ)する
  • 頭部を用手固定からヘッドイモビライザーへ付け替える時は固定を解除する時間を最小限にする
  • バッグボードへの移動は背部観察時や腹臥位から仰臥位への体位変換の際に合わせて行っても良い
  • アンパッケージはスネーキングを防ぐために頭部から固定を外す
  • 小児は頭部が大きいので背中にタオルなどを入れて体位を整える
  • 妊婦は下大静脈圧迫を避けるために可能な範囲で10〜20度程度の左側臥位を保つ

SMRの適応

①脊椎・脊髄損傷の可能性がある受傷機転

  • 高速の自動車事故
  • 高所からの墜落事故
  • 飛び込みによる損傷
  • 脊椎周辺の穿通創
  • 頭頚部へのスポーツ外傷

②脊椎・脊髄損傷を疑うべき所見

  • 頚部や背部の疼痛・圧痛
  • 四肢麻痺・対麻痺などの神経学的所見
  • 頭部・顔面の高度な損傷
  • 意識消失の病歴

③正確な所見が得られない傷病者

  • 事故や受傷による精神的動揺
  • 意識障害
  • アルコールや薬物の摂取
  • 身体部位のいずれかに強い痛みを訴える

ロード&ゴーの適応でもSMR(全脊柱固定)を行わないこともあるので注意

MILS/用手正中固定

Manual In Line Stabilisationの略

MILSのPoint

  • 頭側で頭部を保持できる体位を取る(肘を地面について抑えれる姿勢)
  • 頭部の両側を手で抑える
  • 耳は完全に塞がない

家族対応

重症・救急患者家族のニード

社会的サポート医療者.家族.知人などの人的.社会的リソースを求めるニード
社会的サポートシステムを志向するようなニード
情緒的サポート自己の感情を表出することによってそれを満たそうとするニード
情緒的表現を通して.それを受け止めてもらったり対応してもらいたいと.意識的あるいは無意識的に表出されるもの
安楽・安寧家族自身の物理的・身体的な安楽・安寧・利便を求めるニード
情報患者を中心に情報を求めるニード
接近患者に近づき.何かをしてあげたいと思うニード
保証治療や処置に対して安心感.希望などを保証したいとするニード

その他

骨折と出血量

  • 上腕骨:300〜500ml
  • 大腿骨:1000〜2000ml
  • 下腿骨:500〜1000ml
  • 骨盤:1000〜4000ml
  • 複数の骨折の場合は更に500ml追加

ショックと循環血液量

  • 循環血液量20%未満の出血による症状は一過性
  • 循環血液量20%以上の出血はショックをきたす
  • 循環血液量40%を超える出血では心停止の危険が生じる

まとめ

  • JPTECは防ぎ得る外傷死の予防を目的とし、搬送前救護を学ぶことができる
  • 受講資格は救命士.看護師.警察官など様々
  • e-learningによる事前学習あり筆記試験あり
  • 基本的に1日で受けられる研修

病院外への外傷に対する対応を学びたい方にはオススメの資格です

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