はじめに

本記事では、若い人で救急外来に受診することもあるキス病(伝染性単核球症)について紹介します。
キス病(kiss disease)とは伝染性単核球症(infectious mononucleosis/IM)の俗称で、キスで感染する病気の一つです。
性感染症と類似していますが、キス病はEBウイルスがキスなどの唾液を介することで発症するため、性感染症とは異なります。
本記事ではキス病の特徴や症状などを紐解いていきます。
参考資料
EBウイルス
タイトルの通りEBウイルスに関わる疾患について解説している参考書です。EBウイルスに特化していますが、伝染性単核球症もEBウイルスが主な原因のため記載されています。
医療の現場で愛される医学書をモットーにしている診断と治療社が出版している書籍であり、内容は医師向けですが、より臨床に即した具体的な参考書になっています。
書籍名 | EBウイルス |
出版社 | 診断と治療社 |
著者 | 髙田 賢臧ら |
出版年月日 | 2015年9月頃 |
ページ数 | 232ページ |
慢性活動性EBウイルスガイドライン
本記事で解説する伝染性単核球症とは少し異なりますが、EBウイルス関連血球貪食性リンパ組織球症(EBV-HLH)などのEBウイルスを主体とする成人で起こる疾患などをまとめています。
EBウイルスは腫瘍形成など様々な要因とも絡んでいるため、EBウイルスをより深く知りたい人にはオススメの一冊です。
書籍名 | |
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著者 | |
性感染症とは
性感染症とは性行為によって感染する病気の総称です。青年期から成人期頃の年齢で発熱などの感染症状が疑われる場合は性感染症との鑑別が大切になります。
キス病は性感染症とは異なり、唾液を介して起こりうるものであるため性行為の有無とは関係なく発症する可能性があります。
伝染性単核球症(キス病)とは

伝染性単核球症がキス病(kissing disease)と言われる所以は、唾液によってEB(エプスタイン・バール)ウイルスが感染して伝染することからなります。
EBウイルス(EBV/Epstein-Barr virus)とはヘルペスウイルス科に属するウイルスでヒトガンマヘルペスウイルス4型(Human gammaherpesvirus 4)と現在は呼び名が変更されているが、分かりやすく旧称を用いることが多いです。
また、近年ではEBウイルスが腫瘍形成や自己免疫疾患、パーキンソン病などにも関わっていることが知られています。
日本では90%以上が成人までに感染しますが、幼少期に感染せずに、思春期以降で初めて感染した場合に伝染性単核球症となることが多いです。感冒(風邪)や扁桃炎と症状が類似しており、間違われることが多いため鑑別が必要となります。
感染経路は唾液が多く、主にEBウイルスの感染によって症状が出現します。EBウイルスが主ですが、サイトメガロウイルス(CMV)やヒト免疫不全ウイルス(HIV)、ヒトヘルペスウイルス(HHV-6)、アデノウイルス(ADV)、単純ヘルペスウイルス(HSV)、ヒA型肝炎ウイルス(HAV)、B型肝炎ウイルス(HBV)、トキソプラズマ、リケッチアなどが原因となることもあります。
また、唾液感染はキスのみではなく、回し飲みや食器の共有などでも伝染することがあるため、そういった行為が比較的多く初感染になりやすい思春期に好発です。
ウイルス | EBウイルス,サイトメガロウイルスなど |
感染経路 | 主に唾液感染(キス病・飲み回しなど) |
潜伏期間 | 通常4〜8週 |
好発 | 思春期以降 |
伝染性単核球症(キス病)の症状
症状の特徴は高熱を伴うことと肝機能障害を合併する可能性があることです。また、症状が1週間〜2ヶ月程度まで長期で続くことがあります。
主な症状は以下の通りです。
- 発熱(38℃以上高熱)
- 倦怠感
- 喉の腫れや咽頭痛
- 全身のリンパ節腫脹(主に頸部が中心)
- リンパ節腫脹に伴う気道閉塞
- 発疹
- 肝腫大(肝機能障害)、劇症肝炎
- 脾腫
- 貧血(溶血性貧血)

救急外来で対応する場合には、思春期頃の発熱の時は、伝染性単核球症を疑い、1〜2週間以上持続する発熱と唾液感染を示唆する経過がある場合には積極的に精査すると良いです。
伝染性単核球症(キス病)の検査と診断
伝染性単核球症(キス病)の検査は主に血液検査と超音波検査(エコー検査)です。特に伝染性単核球症と呼ばれるように、単核の上昇が見られます。
単核とは白血球の一種でリンパ球や単球のように単一の核からなる細胞を示します。また、伝染性単核球症では異形リンパ球も増加するのが、特徴的です。
また、血小板や顆粒球は減少傾向にあり、溶血性貧血なども起こる可能性があります。
検査 | 項目 | 特徴 |
---|---|---|
血液検査 | WBC,CRP,AST,ALT,EBV, リンパ球,異形リンパ球など | 主に炎症の程度と肝障害の有無を確認する。ウイルス抗体の検査結果は出るまでに数日程度の時間を要する。 |
超音波検査 | 肝臓,脾臓 | 肝臓や脾臓の炎症・腫脹の態度を確認する。 |
その他 | 発熱の鑑別疾患となる身体所見,コロナウイルスおよびインフルエンザウイルスなどの検査 | 扁桃炎などとの鑑別として扁桃腺腫大やコロナ,インフルなどのウイルスを確認することもある。 |
診断に用いる主な血液検査内容を表にまとめました。

これらの検査を組み合わせて診断にいたります。
伝染性単核球症(キス病)の治療

伝染性単核球症(キス病)は症状が長いですが、特効薬となる薬はありません。
前述した通り主な原因はEBウイルス(EBV)による感染のため、ウイルスである以上、抗菌薬は効果を示さないことがほとんどです。
また、インフルエンザウイルスやコロナウイルスに対してはそれぞれ特効薬が開発されていますが、EBウイルスに対してはまだ、有効な治療薬はないです。
伝染性単核球症(キス病)の治療は主な対症療法になります。
- 解熱鎮痛薬(アセトアミノフェンやロキソニンなどのNSAIDs)の使用
- 肝腫大や脾腫大があるときは安静にして力仕事を避ける(脾破裂予防)
- 肝障害に対する治療(多くは入院、必要に応じて集中治療)

アルコールは控え、アセトアミノフェンも肝障害があるため慎重投与がオススメです。
伝染性単核球症(キス病)の初療と看護

救急外来での基本は常に緊急性の把握とABCDEアプローチです。
伝染性単核球症(キス病)は基本的に発熱と咽頭痛などの風邪様の症状を呈して来院してくることが多いです。
症状が風邪症状に近い状態で歩行も可能であれば、特に慌てることなくABCDEアプローチで症状を観察します。
その際には年齢や唾液感染の有無などが分かる情報収集を行います。伝染性単核球症(キス病)の可能性がある場合には、追加のウイルス検査やエコー検査の準備、必要に応じて入院ができる体制を進めていくとスムーズな対応ができます。
腹痛(肝障害、脾破裂)や気道閉塞を疑う所見があった場合には緊急性が高いため即座に対応が必要となり、応援など人手も充足しておくと安定した看護を提供できます。
伝染性単核球症は発熱など感染症状を主として引き起こしますが、他の疾患との鑑別が必要となります。
特に感冒を始め、インフルエンザ、コロナ感染症、扁桃腺炎、溶連菌性咽頭炎なども若年の感染症としては多いため多角的に症状を観察する必要があります。
腹痛や気道閉塞などの初見で緊急性が高い場合にも、虫垂炎やアナフィラキシーなど思春期で起こりうる疾患は多数あるため、伝染性単核球症以外の疾患との鑑別が重要になります。

診断がついた後は、思春期で病気の経験なども少ないため精神的ケアも大切にすると良いです。発熱なども長く続くため本人の希望に合わせてクーリングや解熱剤なども使用します。
また、肝障害などで重篤化しない場合には基本的に予後は良好です。検査結果なども見ながら、安心感を提供できる関わりを行っていくと寄り添った看護に繋がります。
おわりに

EBウイルスによる伝染はインフルエンザなどのように非常に強い感染力を持つわけではありませんが、キスなどの濃厚接触では容易に感染します。
年齢も加味して羞恥心を伴うことも非常に多いため、プライバシーに配慮し病気を治すために必要な情報であることと個人情報保護に遵守することを理解してもらうことが必要です。
また、自然に軽快することが多い病気ですが長期的かつ身体の負担を伴うことが多いため、心配な方は近くの内科または耳鼻咽喉科の受診をお勧めします。

kissing diseasesは対応を要する病気です。性感染症とは異なるので、それをご理解頂いてお身体ご自愛下さい。