導入
- 配合変化によるメインの使い分け
- 自由水とは
- 細胞外液とは
- リンゲルとは
主に細胞外液を中心に体の水分の仕組みと輸液の分布についてご紹介
治療を密かにサポートするメイン輸液ですが、実は知れば知るほど奥が深い治療薬なのです
この記事を読めば分かること
- 生理食塩水、ブドウ糖、リンゲル液の違い
- 血管内に入る輸液量
- 血管内に入る輸液量の仕組み
外傷を例に紹介します
参考資料
この本はタイトルに『あなたも名医』と含まれるように、医者向けの本になります
私が出会った中で、最も輸液製剤について基礎から応用まで書いてある本です
輸液は身近にある割に知らないことが多くあります
輸液は知れば知るほど
楽しくなりますよ
本の内容
- 体の体液の仕組み
- 輸液製剤の種類と内容
- 急性期、がん、小児における輸液
- 腎障害、心不全、糖尿病における輸液
- 輸液に関するトピックス
この本の最大の特徴は症例があることです
メイン輸液の使い分けに関する症例を、載せている本を私は初めてみました
各トピックス毎に症例を記載し、それを基に輸液の使い方を説明しています
また、各病態に合わせた輸液の使い方が書かれているので輸液の仕組み(基礎)を理解した上で、応用もこの1冊で学べるのでとても為になる一冊でした。
読んでみて
良かったところ
- 輸液の奥深さを学べた
- 基礎を一から理解できた
- 救急外来における輸液の使い分けも記載
特に疑問に感じていた点もわかりやすく説明されているので、読み解けば納得できる内容ばかりでした
難しかったところ
- 久しぶりの数式に悪戦苦闘
- 活字が多い
浸透圧の計算式は特に何度も読み込みました
イラストが好きな私にとっては少し理解するまでに時間がかかりました
輸液の種類
輸液の種類は大きく分けて4種類
- 生理食塩水
- ブドウ糖液
- リンゲル液
- 混合液
※今回は晶質液をメインに紹介する為膠質液は割愛します
生理食塩水
生理食塩水は名前の通り、体の浸透圧に合わせた食塩水です
細胞外の浸透圧は0.9%のため、その浸透圧と同じようになるようにNaとClの量を添加しています
具体的には154mEq/LのNaとClが含まれています
浸透圧は同じですが血液よりNaとClが多く含まれている為、高Na血症や高Cl血症には注意が必要です
特に高Cl血症はアシドーシスを引き起こす為、生理食塩水の大量輸液は避けることが望ましいです
K等が入っていない為、高K血症や小児、その他、DKAやHHSなどの病態に使用
Na量154mEq/Lの仕組み
どうして、生理食塩水の濃度は
成人のNa量より多いんですか?
とても良い質問ですね。
それには浸透圧が関係してきます。
成人のNaの濃度は135-145mEq/Lが基本的な正常値です
それに対して生理食塩水のNa濃度は154mEq/Lと正常値より多いです
ポイントとなるのは生理食塩水と血中の浸透圧が同じと言うことです
生理食塩水に含まれるNaはNaClとして存在しています
NaClはH2O下であれば100%解離しますが、血液中だと75%程度しか解離しません
更に血液中にはH2Oは約93%存在します
これを浸透圧の計算式に当てはめると浸透圧が血管内と同じになるみたいです
※詳しくは本を購入して読んでみて下さい
ブドウ糖液
輸液に使われるブドウ糖の濃度は5%ブドウ糖です
真水(浸透圧0)に5%ブドウ糖を添加することで生理食塩水と同じ浸透圧を保っています
ブドウ糖は血管内で即座に代謝され、真水と同じ状態になります
基本的には血管内に水分を入れたくない病態に使用します
臨床では点滴のみ維持したい場合などが多いです
蒸留水とブドウ糖液
どっちにしろ真水になるなら
注射用水(真水)を入れても同じ
ですよね?
添付文書にも書いてありますが
注射用水は静注禁止です
滅菌蒸留水の浸透圧は0です
超低浸透圧のものが血管内に突然入ると赤血球が壊れ溶血を起こしてしまいます
リンゲル液
リンゲル液とはシドニー・リンガーが考え出した輸液の事で、生理食塩水に水道水を混ぜたことから始まりました
本来、人はナトリウム以外の電解質を体内に含んでいる為、体の中の電解質に近い状態に配合した輸液です
リンゲル液の1番の目的は生理的に水分(主に血管内)を補給することです
リンゲル液は更に3種類に分けられます
乳酸リンゲル液
リンゲル液で最初に作られた輸液です
乳酸リンゲル液とは生理食塩水にK+とCa 2+、乳酸を加えた輸液で細胞外液の1つとして血管内脱水の際に選択されます
乳酸は体内で代謝されるとHCO3-に変換されアシドーシスの改善に役立ちます
酢酸リンゲル液
乳酸リンゲルの次に作られたリンゲル液です
乳酸リンゲルの場合に起こる、高乳酸血症などのリスクが少ないのが特徴です
また、酢酸ナトリウムは投与後重炭酸イオンに代謝され、乳酸リンゲル液同様アシドーシスの改善に役立ちます
重炭酸リンゲル液
リンゲル液の中で最後に作られたのが重炭酸リンゲル液です
クエン酸を混合することで、重炭酸イオン(HCO3-)を含んだ輸液にすることが出来ました
また、特徴としてMgを含んでいる為高マグネシウム血症には注意が必要です
リンゲル液の中で最も高価です
リンゲル液Q&A
乳酸リンゲル液と乳酸アシドーシス
乳酸リンゲル液では
乳酸アシドーシスには
ならないのですか?
難しいところですが『基本的』にはなりません。
乳酸とは解糖系の過程などで産生される副産物のことです
乳酸アシドーシスと呼ばれるように乳酸は酸性のため蓄積で体内のpH(酸塩基平衡)は酸性に傾きアシドーシスをきたします
では、なぜ乳酸リンゲル液の投与は、乳酸アシドーシスを惹起しないのでしょうか
乳酸が蓄積するような病態でもリンゲル液の投与することで、循環血液量増加、末梢組織の酸素代謝が改善します
それにより、血中乳酸値が低下し、ショック時など解糖系が進行する場合も使用可能です
簡単に言うと、乳酸の蓄積量より循環血液量の増加の方が上回るので大丈夫ってことですね
そしたら、乳酸アシドーシスの心配はしなくて良いんですね
『基本的』になので、注意する場合もあります
しかし、肝不全や敗血症性ショックには注意が必要です
乳酸代謝半減期は約30分程度と短いです
乳酸は肝代謝のため、肝不全などで代謝が低下し、それを上回る量が投与された場合は高乳酸血症を助長します
乳酸や酢酸の必要性
そもそも乳酸って必要ですか?
乳酸にはアシドーシスを改善するだけでなく、Cl(クロール)と関係あります
乳酸・酢酸を入れる理由は『 Clを減らす』ことにあります
例えば、
Na+140、 Ca2+15、K+20だとすると、陽イオンと陰イオンを同量にするためにCl -は175必要となります
+と−が同じ量になる様にすれば良いんですね
その通りです。
そしたら、成人のCl+の正常値はいくつくらいでしょう
えーっと、生理食塩水に含まれているCl -の量が154ml/Eqなので150ml/Eq前後でしょうか
正解は100ml/Eq程度です
高Cl血症は代謝性アシドーシスの原因にもなり得る病態です
その為、Cl-の量を減らして、乳酸ナトリウムを取り入れる事でイオンの量を同等にします
また、乳酸ナトリウムはアルカリ化製剤のため、乳酸自体にもアシドーシスを改善する効果があります
投与時に注意すること
全てのリンゲル液で言えることは、大量投与による高K血症には注意が必要です
特に透析や腎機能低下している場合には、Kが蓄積しやすい為投与を避ける傾向にあります
その他は各リンゲル液の特徴に合わせて注意すれば大丈夫です
まとめ
救急外来で臨床として最もよく使うのは酢酸リンゲル液です
値段が重炭酸程高くなく、身体へのリスクが少ないことから選ばれています
しかし、DKAの場合は生理食塩水、透析している場合は1号液(ソリタT1など)を選択するなど使い分けて投与しています
また、酢酸リンゲル液(ソリューゲンFなど)はニカルジピンと配合変化があるため、高血圧疾患や降圧が必要な疾患(頭蓋内疾患など)を対応する場合は乳酸リンゲル液を使う事もあります
病態と状態での使い分けはどの病棟でも必ず行います
何気なく使っているメインの輸液に興味を持ってみると更に医療が楽しくなると思います
関連記事はこちら↓
インスタでも医療情報を公開中📚
URLをクリック↓