はじめに

本日は人工呼吸器のトラブルシューティングでよく用いられるDOPEについてご紹介します。
人工呼吸器に馴染みのある集中治療室や救急外来などでは知ってることが多いかと思います。対して、人工呼吸器を頻繁に扱うことの少ない部署ではDOPEという単語はあまり聞きなれない言葉かもしれないです。
しかし、人工呼吸器を扱うことの少ない場所だからこそ、異常が発生した際に落ち着いて判断できる指標としてDOPEが非常に重要となります。トラブルの原因が人なのか機械なのか多角的に見て考えることが大切です。
DOPEは臨床現場に加えてICLSなど院内急変時のシナリオなどでも用いられることのある項目のため、ぜひこの機会にDOPEを学び知識の幅を増やしていきましよう。
参考資料
ICU実践ハンドブック
洋士社が出版されている参考書で、ICUの内容が網羅されています。人工呼吸器の管理やDOPEについても明記されており、集中治療を極めたい方にはオススメの一冊です。
700ページ以上と持ち運びには少し分厚く不便ですが、詳細まで病態管理などが書いてあります。
出版社 | 洋士社 |
ページ数 | 719ページ |
発売時期 | 2019年3月 |
こんな人におすすめ | ICU勤務,集中治療に興味がある人 |
DOPEとは
DOPEとは人工呼吸器のトラブルとして起こりやすい原因の頭文字をとった単語です。実際のDOPEの意味とは関連がない語呂合わせです。
DOPEの意味
- 「麻薬」「間抜け」などが本来の意味
- 近年ではHIPHOPなどのスラングとして「カッコいい」などの解釈をされていることも多い
DOPEは以下のようになっています。
- Displacement:チューブ位置異常
- Obstruction:チューブ閉塞
- Pneumothorax:緊張性気胸
- Equipment Failure:装置異常
人工呼吸器でトラブルがあった際には上記にあるようにチューブの位置と閉塞、緊張性気胸、装置の異常が主な原因として挙げられます。
DOPEのD
Displacementの原因
DOPEのDはDisplacement/チューブ位置異常です。チューブの位置異常とは主に気管チューブが抜けている、片肺挿管、食道や皮下に迷入していることなどが挙げられます。
片肺挿管、食道や皮膚への迷入は気管挿管実施時に特に注意する項目であり、チューブや抜去は管理中に特に注意する項目です。テープで固定していたとしても唾液や舌での押し出しなどでチューブが抜けていくことがあります。
また、カフに空気を注入しているので抜けることはないと思われがちですが、カフはチューブと気管の隙間から空気が漏れるのを防ぐことが目的であり、カフが膨らんでいてもチューブが抜ける可能性はあります。
カフに頼らずチューブの適切な管理を心掛けることが大切です。
Displacementの観察と対応
Dの異常を疑った際には以下の項目を観察します。
- 気管チューブの固定位置
- チューブの深さ.チューブ内くもりの確認
- 胸郭挙上.左右差
- 肺音左右差
- カフ漏れの増加
- EtCO2
Dの異常において早期に除外すべき項目は食道挿管です。食道挿管においては一切換気がされないことに加え、胃内に空気を送ることで、横隔膜への圧迫や静脈環流減少などを来すことがあります。
Dの異常があった場合の主な対応は以下の通りです。
- 適切な位置に固定
- XP/気管支鏡で診断
- 食道挿管や完全抜去であれば再挿管
明らかに入っていないと感じた時は躊躇せずに、すぐに抜管&再挿管を試みてください。
再挿管になる場合には、喉頭を刺激して浮腫になり、同じサイズの挿管チューブが入らないこともあります。元々入っていた挿管チューブより小さいサイズの挿管チューブもスタンバイしておくと良いです。
DOPEのO
Obstructionの原因
DOPEのOはObstruction/チューブ閉塞です。チューブが閉塞する要因としては以下のようなものかあります。
- 痰や血液による気管チューブ閉塞
- 気管チューブ、回路屈曲による換気不良
- 回路内結露など大量の水で閉塞
気管、期間チューブ、回路のいずれかの閉塞によって起こります。閉塞もD(位置異常)同様に酸素供給が途絶されるため早期に対応が必要となります。
Obstructionの観察と対応
Oの異常を疑った際には以下の項目を観察します
- 換気量低下/気道内圧上昇アラーム
- 痰詰まり/無気肺(体位変換後、多量の
喀痰,胸郭の左右差) - 回路の屈曲(XP 撮影後や体位変換後,
ベッド柵) - 気管チューブの屈曲(口腔内観察)
Oの観察はD(チューブの位置異常)と異なり、チューブ単体を見ても原因が分かりにくいことが多いです。
呼吸音聴取や気管内の吸引を試みてOの異常を疑う場合にはXP(レントゲン)撮影を早期に行うことで原因を鑑別できます。
Oの異常が見られた場合の対応は以下のとおりです。
- 吸引,気管支鏡
- 気管チューブ、回路の屈曲解除
- (閉塞解除できない場合)気管チューブ,回路交換

窒息や重度の喀痰貯留が起こっている場合には、気管内チューブだけでなく気管切開の準備もしておきましょう。
DOPEのP
Pneumothoraxの原因
DOPEのPはPneumothorax/緊張性気胸です。緊張性気胸は患者が原因と考えられやすいですが、人工呼吸器において緊張性気胸が起こる要因としては設定など管理に原因があることが多いです。
Pが起こりうる主な原因には以下のようなものがあります。
- 陽圧換気
- 気腫性病変
- 片肺挿管での従量式換気
- 胸腔ドレーン閉塞
緊張性気胸は肺の脆弱性に人工呼吸器の無理な送気が併さると特に起こりやすいため注意が必要です。
Pneumothoraxの観察と対応
Pの異常を疑った際には以下の項目を観察します。
- 身体所見
- 【視診】:頚静脈怒張,胸郭挙
上左右差 - 【聴診】:肺音左右差
- 【打診】:鼓音
- 【触診】:握雪感
- 【視診】:頚静脈怒張,胸郭挙
- XP 撮影
- 胸腔ドレーンからのリーク増加.消失
胸腔ドレーンが挿入されている場合はリークで早期に判断できますが、それ以外の場合は呼吸音の聴取と早期のXP撮影が重要となります。
Pの異常があった際の対応は以下の通りです。
- 緊急脱気
- 胸腔ドレナージ
- 肺保護換気
- 輸液併用
緊急脱気は16Gなどの太い針を刺して行う、一時的な処置であり最終的には胸腔ドレーンの挿入が必要になります。
胸腔ドレーンの挿入は準備が必要なため、Pを疑う場合には早期に準備を始めておくとスムーズに実施ができます。
また、肺保護換気とありますが、無理な陽圧をかけないことが重要です。緊張性気胸に陽圧喚起を続けるととんどん病態は悪化します。
人工呼吸管理中に緊張性気胸になった場合には、設定を可能な限り低圧にします。また、状況に応じて人工呼吸器を離脱し高濃度酸素に切り替えます。
BVMも同様に陽圧換気のためこの場合はリザーバーで高流量投与が望ましいです。
呼吸状態が悪化しているからといって換気を増やすと逆効果になるため、緊張性気胸は肺保護換気は覚えておきましょう。
DOPEのE
Equipment Failureの原因
DOPEのEはEquipment Failure/装置異常です。Eは人工呼吸器そのものの問題のため、病態関係なく平等に起こりうる可能性があります。
Eが起こりうる主な要因は以下のようなものがあります。
- 配管,ガストラブル
- 機械自体の誤作動
- バッテリー低下
- (アラームを確認)
Equipment Failureの観察と対応
Eの異常を疑った際の観察と対応は以下の通りです。
- 人工呼吸器を外して用手換気
- テスト肺へ接続
- MEへ CALL
- 代替機へスイッチ
人工呼吸器の代替機準備は連携が重要です。周囲に応援や連絡をとってスムーズな対応に対応できるかがポイントとなります。
また、機械のトラブルを疑った場合には早期に用手換気に切り替えてBVMを使用します。酸素の切り替えも忘れずに行います。
おわりに
DOPEの要因から観察、対応を一覧にしてまとめました(図1)

人工呼吸器はABCDEアプローチの中でもABと優先度の高い役割を担っています。素早い判断に加え早急な対応が必要となるため、DOPEを念頭に入れトラブルに迅速に対応できるように心がけます。

予期せぬトラブルも迅速に対応できるとDOPE(カッコいい)ですね。