はじめに
ここから先は応用編です
輸液の使い分け以上の
応用ですか?
そうです。
実際に血液として、どれくらい
補充されているかをお話ししていきます
血管内にどれくらい輸液が留まるのかは、組織と血液の浸透圧や分布の割合などが関わっています
輸液は栄養補給.脱水.電解質の補給など様々な場面で使われます。用途によって輸液は異なりますが、本記事ではメインの輸液をどのように使い分けるのかを紹介します。
メインの輸液を分布や電解質バランスの観点から実際にどの程度補液として効果があるのか紐解いていきます。
前回記事はこちらクリック↓
参考資料
あなたも名医!輸液製剤の種類と使い方
こちらの参考書を今回も参考にしています。分かりやすく輸液の使い分けや特徴が書かれています。
レジデントのためのこれだけ輸液
これならわかる!輸液の基本と根拠!
メイン輸液の種類と特徴
メインで使われる輸液は大別すると混合液とリンゲル液です。
混合液とは
- 生理食塩水とブドウ糖液を混合したもの
- 配合量や負荷する電解質によって分類される
混合液の種類は主に4つ
- 1号液:開始液
- 2号液
- 3号液:維持液
- 4号液:術後回復液
1号液が生理食塩水に近く、4号液はブドウ糖に近いのが特徴です。
体液の仕組み
体の仕組みは以下の様になっています。
体のの中の水分量は成人だと約60%、乳児は80%、小児は70%などとよく言われます。
その水分量の振り分けは以下の様になります。
- 細胞内液40%
- 細胞外液20%
- 間質液15%
- 血液 5%
体重換算だと1/13で換算されることが多いです。
多少の誤差はありますが、血液の総量を臨床で計算するときは1/13で計算し、今回のように体内の水分量を振り分けるときは5%を使っていることが多いです。
比率で表すと細胞内液:間質液:血液=8:3:1』になります。
体の水分の半分は細胞内液ということになります。
輸液を行うと、この何処かに分布されることになります。
浸透圧と輸液
浸透圧の仕組み
浸透圧は細胞内外等張です
その等張を維持しているのがAlb(アルブミン)と言われており、採血データでアルブミンが低いと血管内の浸透圧が下がっているとなります。
体内の浸透圧は低張液から高張液に水分を流入することで濃度を薄め浸透圧を等張にしようと働きます。
その為、血管内の浸透圧が下がっていると、血管外の高張を薄めようと血管外へ水分が逃げます。
その結果である、浮腫(むくみ)や腹水などを引き起こします。
拡散と半透膜
拡散と半透膜について
コーヒーを例に
解説していきます
拡散
拡散はインスタントコーヒーを
イメージしてください
インスタントコーヒーをカップに入れて混ぜると、全体にコーヒーが混ざります。
この現象が拡散です。
混ざって広がっていく感じですね
その通りです。次に半透膜の仕組みについてです。
半透膜はドリップコーヒーをイメージしましょう。
半透膜
ドリップコーヒーをマグカップにかけ、お湯を注ぎます。
するとカップの中はコーヒー、濾紙の中には挽いたコーヒー豆が残ります。
濾紙が豆自体は通さないため、濾紙とカップ内で物質が分かれるためコーヒーが抽出できます。この濾紙の役割をしているのが半透膜です。
細胞には細胞膜が存在し、ドリップコーヒーの濾紙の役割を果たしています。
アルブミンのような大きい分子は通さないため、浸透圧を等しくしようと水分の移動が生じ、高張液側に水分が流れていきます。
輸液と体内への分布
分布の仕組み
- 細胞外液は間質液と血管内に3:1で分布
- 5%ブドウ糖液は細胞内と間質液と血管内に8:3:1で分布
細胞外液の分布
細胞外液は等張液です。等張液を血管内に入れると血管内で拡散します。
インスタントコーヒーと同じ原理ですね
そのため、細胞外に分布はしますが、細胞内との浸透圧格差が出来るわけではないので水分の移動は起こりません。
5%ブドウ糖液
5%ブドウ糖も同様に等張液です。しかし、ブドウ糖は血管内でH2OとCO2に分解、代謝され真水と同様になります。
まず初めに血管内で拡散が起こります。
ここまでは先ほどの
インスタントコーヒーと同じですね
5%ブドウ糖と細胞外液との大きな違いは濃度です
細胞外液の場合は細胞外と等張のため、細胞外(血管+間質)にのみ分布されますが、5%ブドウ糖は代謝され真水になったため低張液となります
真水の浸透圧は0ですよ
真水が血管に拡散すると、血管全体の浸透圧は下がります。
結果として、浸透圧は細胞外<細胞内のため、浸透圧格差によって高張液側に水分のみが流れます。
これがドリップコーヒーの役割ですね
体の水分構成は細胞内:間質液:血管内=8:3:1のため浸透圧格差に従い5%ブドウ糖は分布されます。
輸液の使い分け
では外傷を例に輸液を使い分けてみましょう。
概要
概要
- 60歳男性
- 右大腿を交通外傷により受傷
- 活動性の出血が見られ直接圧迫止血法により止血
- トータルの出血量は約1000ミml
まずは体の中の水分量を算出します。
※今回は1/13の血液量を例に用いて行います
60%の水分のうち1/13が血液のため、約4.6の血液が循環しています。次に出血量と血液量を比較し、血液の喪失割合を算出します。
4600ml中の1000mlの血液喪失なので、約22%の血液を出血したことになります。
大腿部は動脈も多く骨も太いため、損傷すると出血量が多い可能性が高いです
20%以上の出血はショックの危機に陥りやすいとされています。以下の症状やVSを確認しましょう。
治療
大原則、輸血が可能であれば最緊急輸血です。O型のRBCとAB型のFFPを準備してショックに備えます。
しかし、今回は輸血が滞って準備できず血管内に1000ml輸液を必要があると仮定して下さい。
※臨床では輸液のみの投与ではHb等は上昇しないため、必ず輸血も行います。
酢酸リンゲル液における輸液
酢酸リンゲル液を投与します
酢酸リンゲル液は酢酸ナトリウムによる等張液です。Na濃度は成人より低い130mEqですが、酢酸等により浸透圧を等張に保っています。
その為輸液の入る割合は間質:血管=3:1となります。
1000mlの血液を補うために必要な輸液量は以下のように計算します
- (間質+血管):血管=必要量:1000
- 4:1=必要量:1000
- 必要量=4×1000=4000ml
これらの式から4000ml酢酸リンゲル液が必要となります。輸液が全て血管内に分布されるわけではなく、大量出血には相当量の輸液が必要になります。
5%ブドウ糖液による輸液
次にブドウ糖液を投与します。
ブドウ糖液は等張液ですが血管内に入ると、即座に代謝され真水となります
そのため、輸液の入る割合は細胞内:間質:血管=8:3:1となります
さっきと同じ要領で
必要な輸液量を計算してみましょう
- (細胞内+間質+血管):血管=必要量:1000
- 12:1=必要量:1000
- 必要量=12×1000=12000
ブドウ糖の場合は血管内に等しく輸液を補充するためには12000mlの輸液が必要になります。
酢酸リンゲル液とブドウ糖液の比較
- 酢酸リンゲル液=4000ml
- ブドウ糖液=12000ml
血管内に補液が必要な場合にブドウ糖液を使用すると、酢酸リンゲル液の3倍投与が必要になります。
ショック時に3倍の輸液量が必要なのは致命的ですよね。
そのため、ショックなど緊急で血管内に輸液が必要な場合はリンゲル液を使用します
まとめ
輸液の使い分けPoint
- 体内の水分の分布は細胞内:間質:血管=8:3:1
- 体の中の水分は浸透圧で移動
- 水分は低調液から高張液に移動する
- 外傷など出血時には特にリンゲル液が有用
今回は外傷を例に輸液の分布を解説させて頂きました。
臨床では必ず医師が指示をしま。しかし、医師の指示を予測し行動ができれば治療は円滑に進みます。
何気なく使っている輸液に関心を持ち、更に良い医療に繋がれば嬉しいです。
補足 実戦問題
1号液で1000mlの血液を補うためには、総輸液量はどれくらい必要か計算してみましょう
1号液(ソリタT1号液)の電解質は以下の通りです。
- Na+ 90mEq/L
- Cl- 70mEq/L
- L-Lactate- 20mEq/L
Na濃度を154mEqとした時に浸透圧が等しいと仮定して計算してみて下さい(四捨五入切り捨て)。
ソリタT1輸液の回答(切り捨て)
- 90:1000=154:外液量
- 90外液量=154×1000=584
- 外液量584ml 自由水416ml
- 外液量 4:1=584:必要量
- 外液量=146ml
- 自由水 12:1=416:必要量
- 必要量=34ml
- 総量 146+34=180ml
- 1000:180=外液量:1000
- 180必要量=1000000=5555ml
1号液を投与した場合1000ml血管内に補液をする為には5555mlの輸液が必要です