さあ、生きるために不可欠な血圧の話をしよう
血圧といえば入院中のみでなく通院や健康診断など様々な場所で測定されるバロメーターです。値としては140/60mmHgなど、上の血圧(以下、収縮期血圧)と下の血圧(以下、拡張期血圧)が表記されていますが、その中でも収縮期血圧に注目されることが多いです。収縮期血圧が高いと動脈硬化や脳出血を始め、様々な疾患のリスクが上昇すると言われています。
高血圧を注意することはもちろん大切ですが、実は低血圧も身体に良いとは限りません。本記事では重要とされにくい拡張期の血圧が低下している場合における、体への影響をテーマに紐解いていきます。

血圧は高いも低いも良いことばかりではなく、丁度良い値を一定に保つことが一番です。特に拡張期の低血圧は冠動脈への影響が考えられます。
参考資料
透析ケア 透析患者の高血圧・低血圧
透析ケアは透析における看護を中心に紹介している雑誌になります。今回紹介する雑誌では透析中などに見られることの多い血圧低下をコラムとしてまとめています。透析でなくても必要な知識なども多数あるため、ぜひオススメです。
血圧とは

血圧とは血管壁にかかる圧力のことであり、心臓から拍出された血液が血管壁を押す力になります。血圧は血管の外から測る圧力のため、血管の内側から血管の外側に押し返す力を値にしたものです。
血圧は外から感知するため、巻き方や衣類などの着用状況などによっても変化しやすく、適切な方法での血圧測定が重要となります。血圧を正確に評価したい場合には、動脈ライン(A ライン)を確保し動脈圧を継続的に測ることで評価が可能です。
血圧は心臓の拍出する強さというイメージが強いですが、実際は血管壁にかかる圧力を外から感知しているため、拍出のみではなく血管壁の弾性によって異なります。末梢血管抵抗とも呼ばれており、容易に拡がるような弾性力の高い血管に血液を流しても、血管壁に圧力がかからないため末梢血管抵抗はあまりかかりません。
対して、細い血管や動脈硬化によって硬くなっている血管では、細いところに無理やり血液を押し込むので末梢血管抵抗は強くかかり、相対して血圧も上昇します。心白出力と末梢血管抵抗を掛け合わせたものが血圧として測定されます。
血圧=心拍出力×末梢血管抵抗
血圧の正常値
高血圧の定義は収縮期血圧140mmHg以上、拡張期血圧110mmHg以上と言われています。対して至適血圧の定義は収縮期血圧120mmHg未満、拡張期血圧80mmHg未満と言われています。
高血圧の分類
| 分類 | 収縮期血圧 | 拡張期血圧 |
|---|---|---|
| Ⅲ度高血圧 | 180mmHg以上 | 110mmHg以上 |
| Ⅱ度高血圧 | 160~179mmHg | 100~109mmHg |
| Ⅰ度高血圧 | 140~159mmHg | 90~99mmHg |
正常域血圧の分類
| 分類 | 収縮期血圧 | 拡張期血圧 |
|---|---|---|
| 正常高値血圧 | 130~139mmHg以上 | 85~89mmHg以上 |
| 正常血圧 | 120~129mmHg | 80~84mmHg |
| 至適血圧 | 120mmHg未満 | 80mmHg未満 |
低血圧の基準
| 収縮期血圧 | 拡張期血圧 | |
|---|---|---|
| 低血圧 | 100mmHg未満 | 60mmHg未満 |
ショックの定義
| 収縮期血圧 | 平均血圧 | その他 | |
|---|---|---|---|
| ショック | 90mmHg未満 | 60~65mmHg未満 | 平時より30mmHg以上低下 |
※平均血圧(MAP):脈圧(収縮期血圧-拡張期血圧)÷3+拡張期血圧
拡張期血圧とは
拡張期血圧とは心臓が収縮を終えて、再度血液をため込んでいる間にかかる圧力です。全身に駆出している時の圧を測定する収縮期が最も血圧が上昇するタイミングであるのに対し、拡張期血圧は心収縮による圧力が全くない最も低い血圧ともいえます。
収縮期血圧は心臓の駆出力や動脈硬化などを反映しますが、拡張期血圧の場合は心収縮後の圧力であるため末梢の動脈硬化や血管の弾力性を反映します。末梢血管の動脈硬化が強い場合は血管が硬く膨らまないため、拡張期であっても圧力が強くかかり拡張期血圧が高値となります。
拡張期血圧のポイント
拡張期血圧低下の症状
血圧低下としての症状は全身の倦怠感や、頭痛、眩暈、頻脈などがありますが、収縮期血圧が保たれていれば拡張期血圧が低い場合であっても症状は見られないことがほとんどです。症状が見られた場合には収縮期血圧の低下や他の疾患の合併も考えられるため、注意が必要です。
拡張期血圧低値の評価
拡張期血圧が低い状態とは、動脈そのものによる圧力が低い状態です。本来は心収縮がない状態であっても血管の中に血液は残っているため、血液が充満されていれば拡張期血圧も保たれますが、血液が十分に充満されていない状態や、血管の収縮能が低下している状態では拡張期血圧は低下します。
拡張期血圧が高い場合は末梢の動脈硬化などを示唆しますが、拡張期血圧が低い場合は見逃されることが多いです。低血圧としての拡張期の基準は60mmHgとされていますが、ショックなどでは拡張期血圧単体で評価されることはなく、収縮期血圧が保たれていれば許容される事例が臨床でも多いです。
特に拡張期血圧の低値は個人差も大きく、脳出血におけるクッシング徴候のような脈圧増大では拡張期血圧が脳神経の障害によって低下することがありますが、それ以外の場合では収縮期血圧の方が優先して評価されます。
しかし、拡張期血圧は臓器への血液灌流と冠動脈への血液供給の二つの側面から重要となります。
拡張期血圧と臓器への血液灌流
臓器への血液供給は収縮期血圧のイメージが強いですが、拡張期でも臓器へ血液は流れています。平均血圧(MAP)は臓器への血液供給を評価する上で集中治療などの領域でも重要視していますが、平均血圧(MAP)の計算式の中でも拡張期血圧が含まれています。MAPは最低65mmHg以上あれば臓器灌流が保たれていると言われており、ショックなど血圧低下によって重篤な病態では目標値として評価することが多いです。
もちろん、収縮期血圧が維持できていれば平均血圧(MAP)も上昇するため、拡張期血圧のみでの評価としては適切ではないですが、拡張期血圧が臓器灌流の指標の一つであることは大切なポイントです。
加えて、菌などが全身に周り血圧低下などの諸症状を引き起こす、敗血症などでは末梢血管が拡張することも多いため、そういった病態によっても拡張期血圧を評価する意義は大いにあります。
拡張期血圧と冠血流
拡張期血圧が低値の場合は冠動脈への血流低下が示唆されるため注意が必要です。心臓から駆出された血液は全身の動脈を経て臓器に駆出されますが、冠動脈は拡張期に流入します。
拡張期血圧が保たれており、ある程度拡張期にも血管壁から押し返す力があればその押し返す力によって冠動脈に血液が流入します。対して、血管から押し返す程の力が得られない拡張期血圧が低値の場合には冠動脈への血流も低下します。
冠動脈の血流低下は虚血を引き起こし心機能低下を引き起こす可能性が考えられます。特に慢性冠動脈疾患において、拡張期血圧が低いほど死亡率が上昇するといった論文も提唱されているため適度なコントロールが必要です。
低血圧と血圧コントロール
高血圧におけるコントロールは食事療法や運動療法などコントロール方法が明確ですが、低血圧においては神経系などの影響もあるためコントロールが困難なことが多いです。
体質や遺伝、ホルモン異常などとも関連が深いため、低血圧のコントロール方法は基本的に自律神経を整えることが重要です。その他、薬剤性や心疾患に起因する低血圧もあるため、原因となり得るものがないか鑑別することも大切です。
拡張期血圧低下の主な原因
収縮期血圧も低下が見られている場合(上記原因に追加)
拡張期血圧のコントロール
自律神経を習慣的に整えていくことで低血圧の改善を行います。また、塩分などは高血圧にも影響が大きいですが、塩分は浸透圧の関係で血管外に水分を漏出させるため塩分過多は避けるほうが良いです。
まとめ
拡張期血圧は収縮期血圧と比べて重要視されにくいことが多いですが、拡張期血圧も収縮期血圧と同様に日常生活が影響します。特に末梢の動脈硬化を簡易的に評価する項目としては心収縮力の影響を受けないため、収縮期血圧より優位と言われているため、拡張期の値を読み解く力をつけると、日常の血圧測定から評価が可能になります。
また、拡張期血圧の至適値は80mmHg未満としていますが、拡張期の低値は冠動脈への血流低下や心疾患などのイベントによる心機能低下症例では、リスクともなり得るため注意が必要です。
血圧は異常値であっても直接的な影響が出ないことが多いですが、全ての疾患のリスクファクターとも言えるほど重要な評価項目です。特に拡張期血圧のみの低値では心収縮力が保たれているため、症状も基本的にありません。介入が難しい項目ではありますが、日常や習慣の積み重ねが血圧に繋がるため、日々の生活を見直すことが大切です。

冠動脈は動脈でありながら拡張期に流入する血管です。ぜひ、拡張期血圧との関連性を覚えて日常の観察に繋げましょう!


